「前もって加熱しておくこと」
菓子に限らず料理でも、前もってオーブンを熱して置いた場合と、生地を入れてから加熱を始めた場合とでは、定められた正しい温度と時間を掛けて焼いても、焼き上がりが違うのは当然の事です。
生地を入れてから加熱すると、ビスキュイなどの軽い菓子の場合は、表面と下面の質が均一に焼き上がりません。つまり下の方の膨らみが悪くなり、全体に小さくなります。原因は、オーブンの 温度が上がるまでの間に、せっかく細かく泡立てた泡が重なり合って、段々大きくなり、上昇しながら逃げてしまいます。そのため上の方は組織が粗くなり、きめ細かいソフトなものはできません。 全体も勿論小さくなります。
よく加熱したオーブンの中にいれた場合は、生地がすぐに熱を受けるので、泡は重なり合う間のないうちに、どんどん容積をまして膨らみます。表面は卵のタンパク質が熱によって凝固し、膜を張った状態になるため、泡を包み込まれた空気は逃げ場がなく、中央部までまんべんに膨らみます。 それと同時に小麦粉のデンプンがアルファー化し、タンパク質の熱凝固も完了して、理想的な軽い 均一な菓子が焼けるわけです。オーブンの中で起こる現象、つまり表面の膜と内部温度の上昇、この二つが旨く行かないと、十分な膨らみが得られないのです。
「温度が高過ぎる場合」
中にいれた生地の表面が早く焦げて、膜が硬くなる割に内部温度の上がりが遅く中央部まで熱が伝わり、空気が膨張しようとする頃は、表面は焦げて熱い壁のようになってしまいます。それをむりに押し上げようとするため、形が悪くなったり、割れ目が出来たりします。火がつよすぎたなと思ったら、少し下げてゆっくり焼くと平均に膨らみます。
ロールのように鉄板で薄く焼くものは、すぐに内部まで熱が伝わるので、やや高温のオーブンにいれて、短時間で焼き上げた方が、水分の蒸発が少なく、フックらと柔らかいものが焼けます。パイなどもやや高温のオーブンにいれます。
「温度が低過ぎる場合」
膨らみが悪く組織が粗くなるのは、オーブンを熱しておかなかった場合と同じ理由です。パイなどの場合は焼き上がる前にバターが溶けてしまうのでよい結果は得られません。
このように温度と時間は菓子の種類や大きさによって違うので、一概に決めるわけにはいきません。要するに焼き色と水分の蒸発、それに気胞の膨張などのバランスを旨く取ることが大切です。上火と下火の調節
オーブンは上と下から加熱するようになっていますので、上火と下火の強弱を上手にコントロールしなければなりません。例えば、シューのように上に強く膨張させたいものは下火を強くしますが、クッキーのような乾き菓子は下面が焦げ安いので、鉄板を2枚重ねるとか、上段にいれて焼くとか、の工夫を家庭用の場合はしなければなりません。
「家庭用のオーブン」
専門家のオーブンよりずっと小さいのでバターケーキのように長い時間掛けて焼くものは、大きな型を使用すると焼きにくいのです。最初は小さめの型で焼いて、どこまで焼けるかを知ってから大型の菓子を焼くようにすると失敗が少なくて済みます。