国民の思いが共感

 朝日訴訟は「人間裁判」と呼ばれます。弁護団の新井章弁護士が名づけたものです。

 人間の尊厳とは?
 人間に値する生活とは?
 生活を支える国家の役割とは?
 憲法25条に規定される国民の権利は保障されているか?

 国民の思いが「人間裁判」に共感したと、新井氏は見ています。

生活できない基準額

 朝日さんが提訴にいたったのは、役所が35年間音信不通だった朝日さんの兄を見つけてきて月1,500円を仕送りさせ、生活保護の生活扶助を打ち切ったからです。

 役所は生活扶助に相当する600円を朝日さんの手元に置き、残る900円を生活保護の医療扶助の一部負担金として取上げました。

 朝日さんは「600円では生活できない。医療の一部負担金を減額して、600円に足して欲しい」と不服申請しました。

 役所は「600円は国が決めた基準額。それで暮らせ」と認めません。

 朝日さんは「基準額は低すぎて憲法25条や生活保護法に違反する」と国を相手に訴訟を起こしました。

人間の本姓に触れ

 朝日さんが入院する療養所は独自に医療扶助の一部負担金を500円に減額していました。

 現地尋問でのこと。
 被告国の代理人が「減額は認められないのに、なぜ減額したのだ」と厳しく療養所係長を問いただしました。

 係長は、裁判関係者はじめ大勢の患者がかたずを呑んで見守る中、10秒ほど沈黙。震える声で応えました。

 「人間としての同情からです」

 600円では生活できないと言う訴えを人間として見過ごせなかった、その真情を吐露したのです。

 新井氏は「人間の本姓に触れた場面」と尋問の様子を感慨深く語りました。

胸打たれた陳述

 控訴審で逆転敗訴。
 最高裁に上告し、世論の力によって口頭弁論を勝ち取りました。
 弁護団は240人に広がりました。
 
 口頭弁論の冒頭、大阪の長老弁護士、毛利与一氏が居並ぶ13人の判事に向かって陳述。その言葉が新井氏の胸を打ちました。
 
 「本件『人間裁判』では究極のところ『人間とは何か』が争われている。裁く側も人間である限り局外者ではない。この事件を裁くことを通して裁判官一人ひとりの人間性が問われることを自覚して欲しい」

 法廷内は厳粛な空気に包まれました。

裁判の人間ドラマ

 新井弁護士は、数々の違憲判決を引き出してきました。

 砂川事件で、「米軍駐留は憲法9条違反」とする伊達判決(1959年、東京地裁)
 
 そして朝日訴訟の浅沼判決(60年、東京地裁)
 
 「国民の教育権」を打ち出した教科書検定訴訟の杉本判決(70年、東京地裁)

 「平和的生存権」を認めた長沼訴訟の福島判決(73年、札幌地裁)

 新井氏は「いずれの裁判にも人間ドラマがありました」。

赤旗日刊紙 10月16日要約


 
◆行政を動かす力に
◆今日は植木トップ