２００８年乳癌学会発表内容
乳癌の罹患数は年々増加傾向にあり、その早期診断、発生予防は急務となっています。
現在主に行われているマンモグラフィー検診では、乳腺量の多い若年にいたっては死亡率減少の根拠となる報告や研究は認められず、より有効なスクリーニング法の確立が望まれます。
NAFとはNipple Aspiration Fluidの略であり乳頭を吸引して出現した分泌液のことを示します。実際には乳頭の吸引のみでは採取が困難な場合が多く、乳房に加温、マッサージを加える方法が多く報告されています。
NAFの中には乳管上皮細胞、疾患関連蛋白の含有が知られており、リスク評価ツールとして用いられるほか、乳がん発生の機序に関する研究材料として重要であることが知られていますが、本邦にはその報告はありません。
ＮＡＦ採取率の主な報告では手技の向上、ハイリスク群の絞り込みなどの結果、その採取率は上昇してきています。
Sartoriusらの報告ではＮＡＦの採取率は３０～４０代で７０～８０％と高率で、本邦乳癌発生、罹患年齢のピークに一致しておりリスク評価ツールとしての活用が期待されます。
当院は乳腺専門クリニックであり、地域の乳がん検診施設でもあるため、多くの健常者が訪れます。
この度、当院を研究実施場所とし、被験者の募集を行い、NPOバイオマーカーがん予防フロンティア内に研究グループを設立、ＣＲＣの参画のもと、センター病院ラボで検体の精製、貯蔵、解析を行うというコラボレーションに基づくワーキンググループを設立しました。
当研究は倫理委員会を通過しており、被験者に文章を用いた説明と同意を取得しております。
検査に先立ちNAFに関する説明及び乳頭分泌液の採取方法をリーフレット、ＤＶＤを使用して行います。
その後超音波にて乳管の拡張の有無などを検索します。超音波検査後両側乳房を加温。自己マッサージを女性ＣＲＣの指導・支援の元施行。分泌液が出現した所で吸引器により吸引後、毛細管で検体を採取します。
我々は２００７年３月３１日から２００８年８月２３日まで２１歳から６５歳までの女性７９名にＮＡＦ採取を試み、５２％の被験者から採取が可能でありました。
年代別採取率は若い年代の方が採取率が良好な傾向が見られるもののその可否に有意差は認められませんでした。
採取群における採取側の割合ですが、片側のみ採取できる場合には右から採取できる確率は左からよりも高い傾向にありました。
季節別採取データーを見てみると、春、夏の暖かい時期に採取率が高い傾向が認められました。
乳癌家族歴、乳腺疾患既往による採取率は有意差を認めませんでした。諸書の文献では有意な関連があると報告されている物も多く、今回の検討で差が出なかったはこの様な背景の被験者が少なかった事も一因ではないかと考えられます。
出産歴、授乳歴と分泌液の関係を調べましたが、何れも有意な差は認められませんでした。
超音波所見と分泌液に関して調べてみると、両者の間には有意な差は認められませんでしたが、逆に超音波所見がなくても分泌液が出た被験者が多数存在したという事実も判明しました。
年齢と採取率に関しては有意な関連を認めませんでした。今回の検討では５０歳以下が93％と大多数を占め、５０歳以上の被験者が少なかったのがその一因ではないかと考えられます。
常夏のハワイと比べ冬場の採取率向上の対策が必要と思われました。
今回の研究で、全体的にリピーターの採取率は高かったのですが、回を重ねると分泌液が出なくなる事がありました。採取に影響を与えるファクターとして何らかの心理的・生理的要因も原因の一部であろうと推測されました。
採取率向上のために種々の要因を考えて見ますと、まず、初回の被験者での採取率を向上させるため、リラックスできる環境での施術。又リピーターを増やしていく事も重要だと思われます。
手技の工夫として冬場の室温全体の加温、被験者の身体加温の方法、時間などの対策が必要と思われました。
今回参加者公募は若年齢に偏りが生じました。今後院内に広く呼びかけ、幅広い年齢層の確保が必要と思われました。
近年のデーターはリスク評価ツールとしての検討を行う為にHigh risk groupに絞り込んだ検討を行い高い採取率を誇っている事から、今後当院患者会などを通じてHigh risk groupのデーター集積に努めていこうかと思います。
結語
■ワーキンググループを設置しNAF採取を行いました。
■本邦女性においても採取可能でありました。
■専門クリニック、センター病院が協力し臨床研究を行うシステムは今後益々重要になってくると思われます。
■新しい研究課題を発見し、推進していくためにはボランティアーシップと熱意をもった医師、ＣＲＣのチームを作る組織が重要と思われました。
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