政令指定都市の浜松市が行政区再編に再挑戦している。現行の7区を3区にまとめる案が2019年4月の住民投票で否決されたが、代案を提起。
市議会は特別委員会で協議を再開した。市の狙いは行政の効率化だが、住民サービス低下を懸念する声もある。市議会は再編の是非について年内に結論を出す方針だ。
「市議会での協議の進展に期待したい」。鈴木康友市長は1月、記者団にこう語った。区再編が再び動き始めたのは、19年末に市が区割り案を市議会に改めて提示したのがきっかけだ。最北の天竜区とそれ以外の6区の合区による2区案で、住民投票前にも議論されたことがある。
市議会最大会派の自民党浜松は1月の特別委員会で「遅くとも年内に結論を出したい」と表明し、他の会派も同意した。2月には自民党の主導で再編協議の工程案を定めた。
市が再編を目指す目的は行政の効率化だ。区を3つに減らすと、人件費など年間10億円を削減できると見込む。現在80万人の人口は長期的には60万人まで減ると想定。少子高齢化で社会保障が増大する中、今のままでは持続が困難とみている。鈴木市長は「将来を考えると今解決すべき問題」と話す。
経済界も同調する。スズキの鈴木修会長は「今の行政区のあり方は非効率」と強調。浜松商工会議所の大須賀正孝会頭も再編に賛同しており「(経費削減で)浮いた予算は福祉などに回せる」と説く。
区再編の原点は、12市町村が合併して今の浜松市となった05年。鈴木修氏が会長を務める第三者機関「浜松市行財政改革推進審議会」が行政運営の効率化等を市に提言した。
鈴木市長は15年の市長選で区再編を公約に掲げて当選して以来、実現を目指してきたが、19年の住民投票では天竜区、浜北区、その他の5区の合区による3区案で21年1月までに再編する案が否決された。ただ、再編自体への賛成は50.83%と反対をわずかに上回り、市が今も再編を推進する根拠となっている。
市議会で過半数を握る自民党は「住民投票で否決された」「喫緊の課題ではない」と慎重姿勢を貫いてきたが、議論を進めることには応じた。ただ、市民の間には区が減ることで高齢者福祉への対応や窓口サービスなどの質が低下するとの懸念がある。浜松市は面積が政令市最大の1500平方キロメートル以上ある。市議会の柳川樹一郎議長は「ITの活用で市民サービスを補うことが重要」と話す。
最大の焦点は区割りをどうするかだ。現行の区を合併する合区では、中核となる区に多くの予算が配分され、他の区の住民から「切り捨てられた」と不満が出る可能性がある。柳川議長は「今の浜松市は12市町村が集まってできた経緯がある。それぞれの地域の意見に配慮しないといけない」と話す。市が19年末に第2の案として出した選挙区の線引きを基にした区割りのような、柔軟な案が必要になりそうだ。
市は21年1月を再編実施時期の一つの目安にしている。再編には条例の制定なども必要なため、鈴木市長は5月までに議会で結論を出すことを目指している。日程はかなり厳しいが、鈴木市長は「最善の努力をする」と強気の姿勢を崩さない。住民投票からもうすぐ1年。浜松市の長年の懸案を巡る市と市議会のせめぎ合いに注目が集まる。 |