●がん研究の歴史「前半」(〜1970年代前半)
(がん遺伝子の関与がまだ明確でなかった時代)

1761年ヒル、鼻腔がんと嗅ぎタバコの過度な使用の関連報告
1775年ポット、煙突掃除少年と皮膚がん関連報告
1859年ダーウイン(Darwin)「種の起源」
    自然選択説
1865年メンデル遺伝の法則
1869年ミーシャ核酸(DNA)発見
1900年メンデル遺伝の法則再発見
1909年ラウス、鶏に肉腫を引き起こす
ウイルスRSV(Rous sarcoma virus)発見

1915年山極勝三郎、発がん実験に成功
(コールタール濃縮液で皮膚がん)
1927年マラー、ショウジョウバエX線照射による
   突然変異誘発
(放射線によるがん化の可能性を示唆する)
1953年ワトソン・クリックDNA二重らせんモデル
1958年 ルビン・テミン、RSVに感染した鶏の細胞
    ががん化することを発見

1962年 国立がんセンター設立
1971年 ニクソン「対がん戦争宣言」
1975年 エイムズ、サルモネラ菌に
化学物質を暴露し、突然変異を引き越す
変異原性と発がん性が関係する報告
(以降、この方法がエイムズ検査
として確立)

●がんの「外因」は「化学物質」「放射線」「ウイルス」
 この前半の研究史から、がん誘発の外因が
「化学物質」「放射線」「ウイルス」の3つが注目されていたとわかりますね。
ただ「内因」としてのがん遺伝子のことはまだ発見されていません。
 しかし1958年のルビン・テミンのRSVによる鶏の細胞のがん化現象の発見が
ウイルスががん遺伝子を運んでいる可能性を示唆し、
後半のがん遺伝子探求につながっていきます。

●ダーウインの自然選択説と「がん化」
 1800年代の生物学上の二大発見はメンデル「遺伝の法則」、ダーウイン「進化学説(自然選択説)」です。
この2発見ががんにも関与していることが後半(1970年代後半〜現在)にわかってきます。
 
 メンデルの法則との関連は、がんのおよそ5%と云われる親からの遺伝的要素の強いがん(家族性がん・がん家系)が
この法則で一部は説明できることがわかってきました。

 ダーウインの進化学説(自然選択説)は以下のようなものです。

1、個体には様々な変異が生まれる。
  (キリンには首の長いものも短いものも両方生まれる)

2、その個体間で生存競争がおき、より環境に適応して有利なものが生き残る。
これを「自然選択」(natural selection)という。
(短い首のキリンは木の高い場所にある食物を食べることができず
生存できないが、長い首のキリンは生存でき生き残る)

3、2を経てキリンの首は長くなる(進化evolution)

この大自然の中の動物の関係のように説明されるダーウインの自然選択説が、
実はがんにも関係することがわかってきました。

1、がん細胞塊の中には、見かけ上は同じような細胞に見えるが実際は様々な遺伝子の変異のタイプがある。

2、がん細胞塊が抗がん剤や免疫細胞の攻撃にさらされると、
それに対して弱いがん細胞は死ぬが、
抗がん剤・免疫細胞抵抗性の遺伝子をもったより「手ごわい」がん細胞が生き残る(自然選択)

3、その生き残った「手ごわい」がん細胞が増殖・浸潤・転移していく(進化)

つまり、「がん細胞」は体内で抗がん剤・免疫細胞により自然選択され常に進化し続けているわけです。
(ただし抗がん剤・免疫細胞の効果が「がん」の進化速度を上回れば、「がん」は縮小できます)

このように「がん」に関する理解には、
古典的生物学(ダーウイン・メンデル)と最近の分子生物学(遺伝子)の両方が必要となってきます。

明日は研究史の後半(1975年〜)、がん遺伝子の研究史を説明します。