設問(09防衛医大/部分)

ウシの飼料は生草や乾草などの粗飼料が基本であるが、乳や肉の経済価値を高めるため、タンパク質や脂肪を多く含む穀物や
(d)「肉骨粉」などの濃厚飼料が加えられる。
また、本来は仔牛が飲む母乳を市場に出荷して、
仔牛には牛脂や血しょうタンパク質などの入った(e)「代用乳」を与えている。
肉骨粉とは食肉を取り去ったウシやブタの骨と肉を乾燥して粉砕した製品である。
特異な摂食パターンから( エ )動物と呼ばれる草食性動物の仲間であるウシは複数の胃を持つ。
ウシが飼料を最初に取込む第1胃(ルーメン)は消化酵素や胃酸を出すことなく、ここにすむ細菌、原生動物など
生物に発酵の場を提供している。ここで炭水化物は分解されて、できた酢酸やプロピオン酸などの 
揮発脂肪酸はウシの体内に取り込まれる。
タンパク質は分解されてアンモニアになるが、栄養源としてルーメン生態系に再び取り込まれる。
未分解の飼料タンパク質や脂肪とルーメン微生物は第2胃つづいて第3胃に送られて行き、第4胃でウシの出す酵素によって消化される。
 ウシはルーメンにすむ化学合成細菌のメタン生成菌が作るメタンガスを利用しない。
ゲップとして口から吐き捨てている。(f)「セルロース」の含有量が高い粗飼料を与え過ぎると、ルーメン生態系は変動してメタンガス発生量が多くなることがある。
膨らんだルーメンが他の臓器を圧迫して健康上好ましくない。セルロースは分解される過程で
揮発性脂肪酸のほか二酸化炭素や( オ )を作る。飼料にセルロースが多いと二酸化炭素と( オ )が増えてきて、これを使うメタン生成菌の活動性が高まったと考えられる。
飼料の組成を変えてルーメン生態系を制御してメタンガスの発生量を減らすことができれば、
ウシの健康のために良いし、飼料の無駄も避けられるし、温室効果ガスであるメタンガスの削減もできて一石三鳥である。


問1 (エ)に適する語を入れよ。
問2(オ)に適する語を選べ
(た)硫化水素
(ち)水素
(つ)ピルビン酸
(て)乳酸
(と)エチルアルコール 
問3.文中下線部(d)の肉骨粉や下線部(e)の代用乳を食べて育ったウシが重い病気になった例がある。
その病名を答えよ。
問4.文中下線部(f)のセルロースを多く含む植物細胞の構成要素は何か、1つ答えよ。
問5.文中下線部(f)のセルロースを分解する微生物を腸内に共生させている昆虫の成虫の名前を1つ答えよ。



(しばし考える)


解答
「問1.反すう
問2 (ち)
問3.BSE(牛海綿状脳症)
問4.細胞壁   
問5.シロアリ」

●解説
ウシ・羊・鹿・キリン・ラクダ・ラマなど食べたものをはきもどし再びかむ動物を「反すう動物」といいます。
 とくにウシが有名で4つの胃
「第一胃(瘤胃・ルーメン)」「第二胃(蜂巣胃)」「第三胃(重弁胃)」「第四胃(皺胃)」を持ちます。
第一・二・三胃で微生物の生育とその発酵による食物の分解を促し、第四胃で微生物も含めて消化吸収します。
したがって第一・二・三胃をまとめて「前胃」、第四胃を「真胃」と呼ぶこともあります。
 牛の第一胃(ルーメン)で、草などのセルロースなど炭水化物が分解され、水素(H2)や二酸化炭素(CO2)が
副産物として放出されます。
次いで、メタン細菌により、この水素と二酸化炭素から
メタンが生成されます(メタン発酵)。生成されたメタン(CH4)は牛のゲップとして体外に排出されます。

CO2 + 4H2 → CH4 + 2H2O
(メルマガ308でやりましたね。バックナンバー参照)

一般に、吸収され牛乳などの栄養分につながっていくプロピオン酸など揮発脂肪酸生成とメタン生成とは反比例の傾向があります。
したがって、「ウシのゲップをさせない」といのはあまりに傲慢ですが、「ゲップを減らす」ように、
飼料やウシの生育環境を考えるのは
メタンによる温室効果ガス減少ならびによい牛乳を作っていくために大切なことです。自然環境・自然飼料での生育が理想ですが、
そうできない畜産農家の事情がある場合でも畜舎の環境を考えるのは大切です。
このようにしにて暑さに弱いウシを育てる場合、
畜舎側面の扇風機の角度を斜め45度にする方向に最近変更されてきています。

●セルロース分解細菌の共生

シロアリ腸内や草食(植物食動物)の盲腸には
セルロース分解細菌が共生し、植物の細胞壁に存在するセルロースを糖に分解し吸収することができます。
ヒトでは盲腸は退化し、セルロース分解菌はいないので「紙や木」を食べても吸収できません。