ヒトでは非特異的防御機構に加えて、特異的防御機構が発達している。特異的防御機構の主役はBリンパ球とTリンパ球である。
 Bリンパ球は抗体の産生する体液性免疫、Tリンパ球はウイルスなどに感染した細胞の除去など細胞性免疫に関与する。
 最初の感染で抗体が作られると、体はそれを覚えていて、次に同じ病原体が侵入するとすぐに免疫系が反応して、抗体がすばやく作られる。そのため、2度目の感染は軽くてすむ。
(B)「ワクチン」というのはこの2度目には症状が重くならないという原理を利用したものだ。

[ワクチン]
 ワクチンはふつうは、病原体を弱毒化したものを使う。
 日本でインフルエンザワクチンが本格的に導入されたのは1957年のアジアかぜ大流行の時で、当時は全粒子ワクチンといって、ウイルス粒子そのものを不活化して抗原としたものだった。
現在のインフルエンザワクチンは、ワクチン製造用のインフルエンザウイルスを、
鶏卵に接種して増殖させ、漿尿液から精製して濃縮したウイルスをエーテルで部分分解して発熱の原因となる物質などを除去し、さらにホルマリンで不活化したHAを抗原としているので、
全粒子ワクチンと区別するために、HAワクチンと呼ばれている。
 ポリオワクチンや麻疹ワクチンとは異なり、ウイルスの感染やインフルエンザの発症を完全には防ぐことはできない。

  インフルエンザウイルスは、ウイルス粒子タンパク質の抗原性の違いから、A・B・Cの3型に分けられ、
このうち流行的な広がりを見せるのはA型とB型である。A型ウイルス粒子表面のHAには15の亜型が、NAには9つの亜型がある。
 これらの亜型が様々な組み合わせで、ブタやニワトリなどヒト以外の宿主に広く分布している。
A型インフルエンザウイルスはヒトにも家畜にも感染する共通感染症であり、最近では、渡り鳥がインフルエンザウイルスの運び屋ではないかと注目されている。
 ウイルスの表面にあるHAとNAは、遺伝子の突然変異のため、同一の亜型内でわずかな抗原性を毎年のように変化させる。
そのため、A型インフルエンザは巧みにヒトの免疫機構から逃れ、流行し続ける。これを連続抗原変異または小変異という。
いわばマイナーモデルチェンジである。連続抗原変異によりウイルスの抗原性の変化が大きくなれば、
A型インフルエンザに感染して免疫がある人でも、再び別のA型インフルエンザの感染を受けることになる。
抗原性に差があるほど感染を受けやすく、また発症したときの症状も重くなる。そしてウイルスは生き延びる。
 
 さらにA型は数年から数十年単位で、突然、別の亜型に変わることがある。これを不連続抗原変異または大変異という。
インフルエンザウイルスのフルモデルチェンジで、新型インフルエンザウイルスの登場である。
新型ウイルスに対しては、誰も抗体をもっていないため大流行となり、インフルエンザウイルスは生き延びる。    
  
問1.(B)に関連し,インフルエンザワクチンによる予防接種と、蛇(へび)毒に対する血清療法の類似点と相違点を簡潔に説明せよ。

問2インフルエンザウイルスがヒトに感染した場合、それに反応して産生される抗体の主なものは、HAタンパク質に対するものである。
したがって、HAタンパク質におこる点突然変異の蓄積による連続的なタンパク質一次構造の変化は、
ウイルスがヒトの免疫系の防御を逃れるための有効な戦略であると考えられる。免疫系の防御を逃れるために、他のウイルスがこれ以外に取りうる戦略を書け。


(しばし考える)


解答
「問1(類似点)抗原抗体反応により抗原と結合し排除する。 (相違点)予防接種[ワクチン接種vaccination]は、抗原の侵入以前に、
抗体産生のため少量で弱毒化した抗原であるワクチン(抗原)を人体に接種し、一次応答を起こさせて抗原の記憶細胞を生じさせ、
あらかじめ免疫を成立させておく病気の予防法である。接種ののち発効までに日数を要するが効果は持続的である。
 血清療法は、ウマなど他の動物にあらかじめワクチンを接種したのち採血して抗体を含む血清を作成保存しておき、
ヒトが毒ヘビにかまれた時の緊急時にこの血清を注射する治療法である。即効的だが効果は一時的で、異種動物タンパク接種により副作用が起きる危険性もある。

問2HIVなど逆転写酵素を持ったRNAウイルスであるレトロウイルスに多く見られる戦略で、
宿主細胞に侵入すると自己のRNAをDNAに逆転写し、これは宿主DNAの一部に組み込まれてプロウイルスとなって、必要な時期が来るまで潜伏する。」  

以上4回で2002医科歯科大問題終了です(難しい小問は略してます)。
インフルエンザと免疫については相当理解が進みましたね。