★設問(2010年東北大前期・生物・一部)
 共通の中間体から分岐した経路で異なる複数の産物を生成する合成経路は、複雑な制御系を有している。
 よく知られている例は、大腸菌のアスパラギン酸からリシン、メチオニン、トレオニン、イソロイシンが生成する経路である。
 この経路の特徴は、1つの反応を複数の酵素が触媒する段階があることである。
 このように同じ反応を触媒する異なる酵素のことをアイソザイムという。
図に示した経路では、アスパラギン酸から中間体3を生成する反応を3つのアイソザイムが触媒する。
 各アイソザイムの活性あるい合成は、異なるアミノ酸による制御を受ける。


 







 



 (図では合成経路を→で、酵素合成の抑制あるいは酵素反応の阻害を赤の点線→で示してある。)
(化学式はアラニンの側鎖に更に付加した部分を示す。本設問にはなかったが、イメージのために加筆した。各化学式を比べると、メチル化、アミノ基付加など通常の反応の積み重ねとわかる。)

   その結果、全体としてバランスを保ったアミノ酸の合成が達成されている。
たとえば、細胞内のメチオニンとリシンの量が一定レベルを超えると、それぞれのアミノ酸によって酵素Yと酵素Zの合成が抑えられる。
 しかし、酵素Xがまだ存在しているのでアスパラギン酸からの代謝は継続し、細胞が必要とするトレオニンとイソロイシンの合成は起こる。

問1 突然変異により酵素Dが機能しなくなった変異株が、最少培地で生育するために添加する必要のあるアミノ酸の名称をすべて書け。

問2 突然変異を起こした酵素X、Y、Eは機能しないとする。酵素X、Yが同時に突然変異を起こした変異株が生育するために、最少培地に添加する必要があるアミノ酸を全て記せ

問3 酵素EとYが同時の突然変異を起こした変異株が生育するために、最少培地に添加する必要のあるアミノ酸の名称をすべて記せ。





(考える)




問1 トレオニン・メチオニン・リシン
問2 トレオニン・メチオニン
問3 メチオニン

解説
問1 リシン・メチオニン・トレオニンの原料である中間体4が生成されないので、最初から培地に添加しておくしかない。なおトレオニン→イソロイシンは阻害されないので、イソロイシンは加えなくてよい。

問2 XYが機能停止しているので、中間体4→中間体5ができず、
   その下流にあるトレオニン(イソロイシン)・メチオニンは合成できない。したがってこの2種を添加しておく必要がある。

問3Yのみの機能停止では、中間体3合成、中間体5合成は可能である。しかし酵素Eも機能停止するとメチオニンが合成できないので添加する必要がある。

図でわかるように「負のフィードバック調節」がよく働く。