「細胞膜受容体→シグナル伝達→調節タンパク質→遺伝子発現(DNA転写)」には代表的な2つの流れがあります。今日はその1つのGPCRを学びましょう。

★設問(2004年医科歯科大問題一部・一部改)

「髪の毛の色の素」
インスリン以外のペプチド系ホルモン、アドレナリンの作用方法
 下図で説明する。
 それでは,黒色素細胞はどうして黒い顆粒を作ることができるのだろうか。黒色素細胞でのメラニン顆粒の生成はホルモンによって調節されている。
そのホルモンは黒色素細胞刺激ホルモン
(略してMSH,melanocyte stimulating hormone)
である。MSHはアミノ酸がつながったポリペプチドで,脳下垂体の中葉から分泌される。
脳下垂体からはこの他にも何種類かのホルモンが分泌される。MSHが細胞に働きかけて顆粒の生成を促進するというのはどういうことだろうか。
 だんだん難しくなってきたが,面白そうなのでもう少しいろいろな本を調べてみた。
メラニン顆粒は,メラニンという色素を含んだ粒である。メラニンという物質が黒い色を出している。
メラニンはアミノ酸の一つであるチロシンがチロシナーゼという酵素によってドーパキノンという物質になり,これが重合してできる。
そのためには,まず酵素チロシナーゼが働くことが必要である。
 酵素の中にはそのままで酵素活性を示さず,なんらかの形でスイッチが入ることによって活性を示すようになるものがある。
細胞の中では,キナーゼという酵素がATPのエネルギーを使ってスイッチをオンにしている。
黒色素細胞のチロシナーゼという酵素のスイッチをオンにする酵素なので,チロシナーゼキナーゼという
名前がつけられている。
このチロシナーゼキナーゼも,働いていない状態と働ける状態があって,やはりATPのエネルギーでスイッチが入る。
このチロシナーゼキナーゼを活性化するのがまた別の酵素で,こちらはタンパク質キナーゼAと呼んでいる。
 もう一度復習すると,タンパク質キナーゼAがATPを使って
チロシナーゼキナーゼのスイッチをオンにして,スイッチが入ったチロシナーゼキナーゼは
チロシナーゼのスイッチをオンにして酵素として働けるようにする。こうしてチロシナーゼはチロシンに作用して,どんどんメラニン顆粒の原料を作り出すのである。
 それでは,血液によって運ばれてきたMSHはどのようにして細胞の中にあるチロシナーゼの活性を調節しているのだろうか。
MSHはポリペプチドホルモンなので,細胞膜を通過して細胞の中に入ることはできない。
そこで,MSHはまず黒色素細胞の表面にあるMSH受容体と結合する。MSH受容体は細胞膜を貫通するタンパク質で,
結合したという情報は膜貫通部分を通って細胞内の部分へ伝えられる。その結果,
細胞内にあるATPをcAMPという分子へ変換する酵素が活性化され,cAMPが細胞質内にたくさん作られるようになる。
cAMPは,分子の中でリン酸と水酸基がエステル結合をつくって環状構造ができた分子で,環状アデノシン一リン酸というのが
正式な名前である。このcAMPがタンパク質キナーゼと結合して,この酵素を活性化,すなわちスイッチをオンにするのである。

 これでつながった。MSHは黒色素細胞にある受容体に結合してATPからcAMPを作る酵素を活性化し,この酵素がATPからcAMPをつくる。
cAMPはタンパク質キナーゼAと結合してこの酵素を活性化する。するとタンパク質キナーゼAはチロシナーゼキナーゼを活性化し,
活性化されたチロシナーゼキナーゼはチロシンキナーゼを活性化し,こうしてチロシンからメラニンが作られる過程が動き出すのだ。


ずいぶん回りくどいやり方だが,こうすることに
「利点があるのだろう。」

 チロシナーゼという酵素は,
チロシナーゼ遺伝子にそのアミノ酸配列の情報が記されているが,この遺伝子はc(color)とも呼ばれている。
これまでに述べたように,この遺伝子の情報によって作られるチロシナーゼは,メラニンを作るために不可欠な遺伝子なので,
突然変異によって機能しないタンパク質が作られるとメラニン顆粒ができなくなり,皮膚が色素を欠いて白っぽくなり,
髪の毛も白くなる。黒色素細胞は皮膚だけにあるのでなく,いろいろな場所に存在する。
たとえば,眼の虹彩や網膜にもメラニンがあって黒くしている。そのためチロシナーゼが機能しなくなると,
虹彩や網膜もメラニンを欠くようになり,眼は血の色を反映してピンク色となる。アルビノといわれるのがこれである。

問1 MSHが黒色素細胞に働くと,細胞内にどのようなことが起こってチロシンがメラニンへ変わるのか,わかりやすい模式図を描け。

問2「利点があるだろう」について,どのような利点があると考えられるか答えよ。
(東京医科歯科大2004年,部分)




(考える)



問1 解答略
(設問としては本文に書いてある通りに図示するものですが、せっかくですから、この流れの要点をまとめ以下に図示しました。)

問2ホルモンが存在する場合、それを細胞膜レセプターが受け止めると、微量のホルモンの作用を細胞内で多段階で増幅し最終産物の量を増やす。(またホルモンがない場合、そもそも反応が起きない)

★解説

以下の図で説明しましょう。













 





 



図では活性化された状態を赤で示している。

1、ホルモン・神経伝達物質・白血球間のサイトカインなどの親水性リガンドが、7回膜貫通型レセプターの表面に結合する。
 (7回膜貫通型レセプターは
疎水性アミノ酸が多い場所と親水性アミノ酸が存在する。疎水性の部分で細胞膜を貫き、親水性の部分は外・内に位置する)

2、7回膜貫通型レセプターの裏側(細胞質の側)が活性化し、それに結合するタンパク質(Gタンパク)が活性化する。
 (7回膜貫通型レセプターはGタンパク質は、GTP,GDPなどと結合するので「Gタンパク質」と
結合するのでGタンパク質共役型レセプター(Gーprotein coupled receptor、GPCR)という)

3、Gタンパク質に結合するの物質はGDPからGTPに置き換わる。


4、GTPと結合したGタンパク質は細胞膜の内側を移動し、「アデニル酸シクラーゼ」にぶつかり、それを活性化させる。

5、活性化したアデニル酸シクラーゼは、ATPを「c(サイクリック)AMP」に変化させる。

6、cAMPは不活性型PKA(プロテインキナーぜA、A系キナーゼ)を活性化し、その流れの最終産物「調節タンパク質」(「転写因子」)が遺伝子の発現を制御する。

7、これらの反応過程で活性化された分子は反応後すみやかに不活性型に戻り次の親水性リガンドの刺激がくるのに備える。
(なおGタンパク質はGTPをGTPアーゼでGDPになり、もとのGPCRの裏の位置に戻る)

2〜5の細胞質内での連続反応の流れをとくに「シグナル伝達」といい、この流れを「7回膜貫通型レセプター・A系キナーゼ」という