★設問1 ガードンは、アフリカツメガエルの小腸上皮細胞の核を、紫外線などで核を不活性化した未受精卵に移植すると、
一部ではあるが、完全個体になるものが出現する。この実験で完全個体となったカエルを何というか?
 実験から何がわかった生物学上の重要な認識は何か?



(考える)




クローン

分化の進んだ細胞の核でも、全身をつくる遺伝子セットを保持し続けている。

解説
 分化の進んだ細胞の核について、「分化に不必要な遺伝子は捨てた」という考え方と、
「全遺伝子は保持し続けているが、必要な遺伝子だけ発現させている」という考え方の間で論争があったが、後者の説を支持する結果となった。

★設問2 上記実験に対し、「『紫外線で核を不活性化する』作用が不十分で未受精卵の核の遺伝子が活性を保持し続け全身を作る遺伝子として働いたのではないか。
だから分化の進んだ細胞の核が全遺伝子を保持していたとは断定できない」という反論があった。
 この反論に再反論し、「分化の進んだ細胞の核が全遺伝子を保持している」と確定させた実験方法を答えよ。



(考える)




 核小体の数が異なる突然変異個体を使用した。
たとえば核小体を2つもつ野生型のアフリカツメガエルの未受精卵に、核小体を1つもつ突然変異種の小腸上皮細胞の核を移植し、完全発生する個体の細胞の核小体の数を調べた。
その結果、核小体の数が1つであることがわかり、発生した個体は小腸上皮細胞の核の遺伝子が発現したクローンであることがわかった。
また、同様な主旨で有色個体の未受精卵にアルビノの個体の小腸上皮細胞の核を移植し、アルビノになることを確かめた実験も行われた。








 










★設問3 小腸上皮細胞から取り出した核よりも胞胚から取り出した細胞の核のほうが完全なクローンが出現する可能性が高い。このことは何を意味しているか?



(考える)




 分化した細胞の核も全遺伝子を保持しているが、分化するほど全遺伝子の再発現は困難になる。

解説
 核の遺伝子に様々な発現を阻害する限定がかかるため。

★設問4 植物分野でこの核移植実験と同様な意味を持つ技術を説明せよ。このように1つの細胞・核が全遺伝子を発現させる能力を何というか



(考える)




・組織培養(植物細胞を植物ホルモン・糖・無機塩・ビオチンなどを含む培地で完全個体を形成させることができる)
・分化全能性

解説
 分化全能性という言葉は狭義には細胞を培養するだけでクローン個体を形成させることができる植物(の組織培養技術)のことをいう。
広義には核移植実験やES細胞など「分化した細胞の核も全遺伝子を保持している」ことを示す動物のことも含む。
入試では両方の意味で聴かれるので問題に応じて使い分けるが、しだいに広義の使用法が増えてきている。

★設問5 カエルと同様な手法では哺乳類のクローンはなかなか成功しなかった。1997年に最初に成功した哺乳類クローンの生物名、個体名、
研究者名、実験上の工夫を書け。



(考える)




・羊
・ドリー(クローン羊ドリー)
・ウィルムット
・(乳腺の細胞など核を提供する)細胞を飢餓状態で培養した

解説
培養飢餓状態におくことにより、分化した細胞核がリセット初期化され
ることにより全遺伝子を発現しやすい状態になると考えられている。

★設問6 畜産分野などでは、
核移植などで行われるクローンに対し、初期胚を分割して代理母に戻すことによって得られるクローンのほうが簡単で多数の成功例がある。このクローンを何というか?



(考える)




受精卵クローン・胚分割クローン

解説
この技術は人工的に受精卵を分割し、人工的に双子(〜最大数十の同遺伝子の双生児)を作っているようなもので、ウィルムットの培養飢餓・核移植に比べて簡単である。
日本の新聞で「○○農業試験場でクローン誕生」という報道があった時はこちらを考えたほうがよい。
 なおこれと区別して、ウィルムットの手法によるクローンを「体細胞クローン」「核移植クローン」という。

★追加解説ークローンの意味
 クローン(clone)はギリシャ語で「小枝」を示し、小枝が挿し木で増えることから「同一遺伝子の個体」を示すようになった。
以下のように意味が狭い順に三段階の言葉のレベルで使用されているので、問題文から見分けること。


1、核移植クローンのこと(ガードン・ウィルムット)
2、畜産の胚分割(受精卵)クローンも含めた定義
3、同一遺伝子を持つ個体ならば、自然の条件で生まれるものも含めていう。
たとえば、一卵性双生児・微生物やカビの培養でのシャーレ上のコロニーの細胞集団、
あるいは日本の花見で有名なサクラなど同一個体から株分けで増やしてきた個体、あるいは挿し木などのことを含む言葉として使う。