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今日は、設問ではなく、遺伝子の問題を解く上で重要な分子生物学上の遺伝子表記の約束の約束を説明します。

下図に転写・スプライシング・翻訳の流れを書きました。
まずはじっくり見てください。そしてあなたの頭の中で理解できる
説明を少し考えた上で下の解説を詠んでみてください。








 




解説
@DNAは二重らせん(二本鎖)であり、片側の鎖を相補的に転写してmRNA前駆体が作られる。RNAポリメラーゼが塩基配列を読み取る鎖は図で下側であり、古くは「鋳型鎖」と呼んだ。
 そしてDNAのもう1本の鎖(図の上側)は読み取られないので古くは「非鋳型鎖」と呼んだ。

ADNAがずっと読まれるわけではなく、図の前後・で省略表記したところにも塩基配列は続いているが、読み始めと読み終わりがあり、
「転写開始点」「転写終了点」という。
(図に省略しているが、転写開始点の少し上流にプロモーターという
転写を開始させる位置決めをするDNA塩基配列領域がある)


A「DNA鋳型鎖」をmRNA前駆体に読むとき
  T→A、A→U(RNAではTはない) G→C C→G
  と読まれる。

BmRNA前駆体時点ではexon(図の黒)・intron(図の青)をわけへだてなく読み取るが、intron(図の青)部分を切り出し、exonどうしをつなぎ合わせるsplicingが行われる。またその際、頭にCap構造・尾にポリAテールをつけて保護する(図のオレンジ)。こうやってできたのがmRNAであり細胞質に移動する。

CmRNAの前部にあるAUG(開始暗号)のところからリボソームが翻訳をはじめ、UGAなど終始暗号の1つ前で翻訳が終了する。
翻訳開始点から順にtRNA(図の黒いフォークのようなもの)が3塩基ごと結合し、それが特定のアミノ酸を運ぶ。そのアミノ酸どうしが結合しタンパクが形成されていく。終始暗号の部分には終結因子が結合しリボソームは離れ翻訳が終了し、タンパク質合成が完了する。


D図で注目していただきたいのは転写開始点と翻訳開始点、転写終了点と翻訳終了点がずれていることである。転写・splicingされたmRNAの最上流と最下流には翻訳されない場所がある。これをそれぞれ
5´ーUTR(5´untranslated region、5´非翻訳領域)
3´ーUTR(3´非翻訳領域)

という。

★分子生物学上の「遺伝子」の読みの約束と、入試問題における注意

当初は「DNA鋳型鎖」から「mRNA前駆体」ができていく事実を重んじ、DNA鋳型鎖を相補的(裏返し)によみmRNA前駆体ができる暗号の対応が注目された。
 しかし、これには2点において問題があった。
@いちいち裏返して考えなければいけないこと
ADNAやRNAの塩基配列は5´→3´に書くことを約束としているが、鋳型鎖ではそれが逆になってしまう。(図の赤の→の方向で確認してください)

そこで、読まれないDNA非鋳型鎖に注目が集まった。DNA非鋳型鎖とmRNA前駆体は裏返しの裏返しで暗号が一致する(TをUに置き換えるだけでよい)ことに加え、鎖の向きも5´→3´方向が一致する。
したがって、分子生物学では非鋳型鎖で遺伝子を表記しようという約束になった。非鋳型鎖はmRNAの遺伝暗号と一致する意味がある鎖ということで「センス鎖」と呼び、鋳型鎖を「アンチセンス鎖」(意味のない鎖)と呼ぶようになった。

このDNAセンス鎖とmRNA(前駆体)の5´→3´方向はそのまま、タンパク質に公式な向きとされているN末端(アミノ基末端)→C末端(カルボキシル基末端)方向と一致し、非常に学問上の表記が便利となった。


★入試における注意
 今、入試問題の8割は、この分子生物学上の約束に従い、遺伝子をDNAセンス鎖で表記している。したがってmRNA遺伝暗号表に対応させるとき、裏返して読む必要はなく、TをUに置き換えるだけで読んでよい。

 ただ2割ぐらいの入試問題では従来の「DNA鋳型鎖→mRNA前駆体」の裏返しの読みを聞くことがある。その際には問題文に「鋳型鎖」と表記されているはずなので、「鋳型鎖」という表記があった時のみ、
「旧タイプの裏返しの問題なんだ」と気づけばよい。