血液が流れる血管(線路)をみていきましょう。体中には毛細血管が張り巡らされ、その長さは10万km(地球2周半)もあります。血管は単なるパイプではなく、さまざまなはたらきをしています。
心臓からでる動脈、末端に分布する毛細血管・心臓に戻っている静脈に共通に含まれるのが1層の細胞でできた血管内皮細胞です。毛細血管ではまわりの組織と物質のやりとりを活発に行うか否かによって、穴なしか穴ありに分類され、肝臓・ひ臓では特に大きな穴が開いています。
動脈・静脈との中膜に収縮弛緩ができる筋肉を含みますが、動脈のほうが心臓から近くて血圧も高いために弾力が必要であり、厚い構造となっています。静脈は血圧が低くなった血液を心臓まで戻さなければいけません。とくに足・手・腹部からは重力に逆らって心臓に血液をもどさなければならないので、逆流を防ぐ弁があります。それでも静脈単独では心臓に血液を送り返しにくく、筋肉運動がおきたとき、静脈を絞るような力がはたらいて血液が戻されます。これは運動をすると血流がよくなる原因の1つです。
血圧は、1.心臓ポンプの力、2.血液量、3.血管(弾力性、ならびに収縮しているか弛緩しているか)のかねあいで決まってきます。そして運動安静状態、水分塩分摂取量などのちがいによって変動するので、血圧をある変動幅におちつかせようと、体はさまざまなはたらきをしています。1を心臓拍動の調整、2を腎臓における水分排出量調整で行うとともに、3(血管平滑筋の収縮・弛緩)を調節しています。

●血管は新生する
血管は傷を修復させることができますが、前の血流路が破壊された場合、新しい血管を近くの別ルートに伸ばすことができます。その血管を新生するとき、体のその部分の細胞が血管内皮増殖因子を放出して血管をよびよせるのです。実はガン細胞もみずからのまわりに血管を増設し、酸素と栄養を安定的に確保して増殖するのです。血管内皮増殖因子を制御できれば、一方では必要な血管増設をさせることができ、一方ではがん細胞の増殖を防ぐことができるので、研究が続けられています。

   
●血管内皮細胞と、白血球の「言葉」
各臓器・組織には血管内皮細胞から有用な血しょうタンパク質・血糖などがにじみでて供給されますが、血球は大型のため、通常は血管からでることはありません。しかし、病原微生物が増殖したとき、その退治のため白血球だけは血管内皮細胞を乗り越えて臓器・組織に入ってきます。その際、血管内皮細胞膜表面の糖鎖と白血球細胞膜表面の糖鎖が、おたがいに「あなたは白血球さんですね。どうぞお通りください」というように識別しあって通します。細胞どうしのコミュニケーションに細胞膜が活躍している例ですね。転移ガン細胞は白血球表面と同じ糖鎖をつくるので、他臓器に転移できるのです。