口は歯で食物を噛み砕き、舌で味を感じる器官であるとともに、呼吸・発声機能も担っています。チンパンジーとヒトを比較しながら、この構造
を確認していきましょう。
チンパンジーに比べ、ヒトでは喉頭の位置が下がり、空気と食物の共通の通り道である咽頭の空間が広くなって舌の動きの柔軟性も増しました。声の基礎となる空気の吐き出しは、肺からの呼気を声門から吐き出すことですが、それを共鳴させる空間が広くなりました。さらに下の動きがこの空間の造形を変えることによってさまざまな音を出せるようになり、言語コミュニケーションが発達しました。チンパンジーはこの共鳴が少ないため(仮に大脳が発達しても)複雑な言葉を話すことはできません。

●言語獲得とともに抱え込んだ嚥下障害
 加齢に伴う高齢者の死亡原因で多いのが嚥下障害です。食事が肺のほうに入りそこで肺炎などの感染症などをおこします。
言葉を発達させた咽頭という空間の拡大とともに、食物と呼吸の通り道を整理する必要が生じました。食事中でも呼吸はしているので瞬時の整理が必要です。それを行っているのが、軟口蓋(のどちんこ)と喉頭蓋です。加齢で喉頭蓋の反射がにぶると、肺に食物が入ってしまうのです。

●加齢以前に起きる睡眠時無呼吸症候群
 嚥下障害は加齢とともに誰にでも起きますが、人によってはこの呼吸経路の圧迫障害が睡眠時起きることがあります。舌が大きかったり、あごが小さく舌がもともと下側に位置する場合、舌が空気の通り道を塞ぎ、無呼吸となるため、睡眠途中で何回も置き、眠りが十分とれず、疲れがとれません。最近、適度な圧力の空気を送り込む装置を睡眠時に装着することで舌の落下を防ごうという治療が試みられています。

●鼻・舌
鼻腔はその上部に嗅上皮があり、そこで空気中の化学物質が表面の水に溶け込んだ状態で感受され、それを嗅神経を通じて脳に刺激として送っています。舌にある微細な突起「味蕾(みらい)」の表面にある味細胞も食物中の化学物質を水に溶けた形で感受します。両者とも化学物質を感受し、危険な物質に対しては逃げたり吐き出したりする適応をします。