ところで、みなさんがいつも同じ時間に眠くなるのはなぜでしょうか?
あまり運動しなかった日でも激しく運動した日でも、眠くなる時間はそれほど変わりませんね。睡眠時間が疲れの蓄積のためだけならば、徹夜して2日分の疲れがたまった夜は2倍眠ってよさそうなのに、いつもより多少余分に寝るだけで起きてしまいますね。
どうやら人間には、昼間の疲労度や前夜の睡眠量とは無関係に、夜眠り、朝起きるというリズムがあるようです。

●睡眠覚醒リズム〜外因リズム(昼夜リズム)か内因リズム(体内時計)か
それでは、夜寝て朝起きるのには何か理由があるのでしょうか? それを確かめようと、1970年代前半に、時計をもたずに洞窟に入ることで昼夜リズムのない状態をつくり、この理由を探った人たちがいました。その結果、外的な明暗リズム・時間の情報がない洞窟でも人は約25時間分で睡眠・覚醒をくり返し、1日と感じていることがわかりました。こうした生体機能のことを体内時計(生物時計)とよびます。実はその体内時計は海のプランクトン夜光虫などの単細胞生物からマウスにいたるまで多くの生物がもっている能力であることがわかってきました。

●脳幹(視交叉上核)に存在する体内時計
生物学者たちは、体内時計の存在場所について無意識の脳である脳幹部を疑い、脳幹の一部である視交叉上核が破壊されたマウスは概日リズムを失うことから、視交叉上核に体内時計があると確かめました。これはヒトでも同じです。

●体内時計と連動する体内ホルモン
血液中に分泌され、無意識に体を調整するあなたの体内のホルモンや体温も、実は体内時計と連動し、増える時間と減る時間が決まっています。成長ホルモンが夜に多いのは「寝る子は育つ」証拠ですし、血糖を増やすホルモン、コルチゾル(糖質コルチコイド)が朝に多くなるのは、睡眠中に食事で補給できなかった糖分を補給するしくみです。
私たちの社会は、意識の世界(大脳)では、昼夜のリズムがなくなりつつありますが、無意識の世界(脳幹部)ではしっかり体内時計がリズムを刻んでいるのです。

●視交叉上核〜朝の光で体内時計をリセットする
では体内時計はなぜ視交叉上核にあるのでしょうか? 実は体内時計はヒトでは25時間、他の生物でも24時間きっかりの時計はなく、22〜26時間ぐらいの幅でずれています。この体内時計の刻むリズムをサーカディアンリズム(概日リズム)といいます。
そこで生物は毎日1時間ぐらい狂う時計を、昼夜リズムに合わせてリセットする必要が生じたので、目に近い部分に体内時計をもっていることが多いのです。さらに最近は視交叉上核の細胞が時を刻む遺伝子(時計遺伝子)を発現させていることまでわかってきています。