抗がん剤Dで処理した細胞の生存率と、1細胞あたりの抗がん剤Dの細胞内量




●07東北大(前期/部分)

 同じ組織のがん由来のがん(注)細胞株[A]と[B]がある。
がん細胞の生存率を低下させる効果のある抗がん剤Dをある濃度で処理すると、がん細胞株[A]の生存率は低くなるが、
がん細胞株[B]の生存率はさほど低下しない。
この原因を明らかにするため、がん細胞株[A]と[B]の遺伝子を比較した。
その結果、がん細胞株[B]では遺伝子rが存在していたが、がん細胞株[A]では遺伝子rが存在していなかった。
遺伝子rは、細胞膜で物質を輸送すると予想されるタンパク質Rをつくる。
そこでタンパク質Rのはたらきを具体的に明らかにするために、がん細胞[A]のDNAに遺伝子rを組みこんで、
タンパク質Rのはたらいているがん細胞株[A+R]を作製した。
さらに、遺伝子rを変異させた遺伝子rxを、がん細胞[A]のDNAに組みこんで、がん細胞株[A+RX]を作製した。
遺伝子rxがつくるタンパク質RXは、物質を輸送するはたらきを持たない。
がん細胞株[A]、[A+R]、[A+RX]について、同一の濃度の抗がん剤Dで処理を行い、細胞の生存率と1細胞あたりの抗がん剤Dの細胞内量を計測し、その結果を浮ノまとめた。
なお、別の実験により、遺伝子rや遺伝子rxのDNAへの組みこみは、それぞれタンパク質Rやタンパク質RXをつくるだけで、
がん細胞の他のはたらきには影響がないことがわかっている。
(注)・・・性質を安定に保持した細胞の集団

問1 表の結果から、タンパク質Rは、抗がん剤Dを細胞の外から内へ輸送するか、
あるいは、細胞の内から外へ輸送するか、いずれと考えられるか、理由とともに記せ。
問2 表の コ と サ の結果として予想される数値の範囲を、下記の@〜Cからそれぞれ1つ選び、記号で記せ。

コ :
1 10以上 40未満   
2 40以上 70未満   
3 70以上 90未満    
4 90以上

サ :
1 100未満   
2 100以上 300未満  
3 300以上 500未満   
4 500以上

問3 がん細胞株[B]の生存率が低下すると考えられる処理を、下記の1〜5からすべて選び、記号で記せ。

1、抗がん剤Dの濃度を上げて処理する。

2、抗がん剤Dの濃度を下げて処理する。

3、タンパク質Rの輸送のはたらきを抑える薬を、抗がん剤Dと同時に処理する。

4、遺伝子rのはたらきを促進する薬を、抗がん剤Dと同時に処理する。

5、抗がん剤Dを分解するタンパク質のはたらきを促進する薬を、抗がん剤Dと同時に処理する。



(考える)


●解答
問1 タンパク質Rをもっている[A+R]株では抗がん剤Dの細胞内量が[A]株の半分以下にも減っているので、RはDを細胞内から外へ輸送すると考えられる。

問2 コ―1   サ―3
問3 1,3

●解説 多剤耐性P糖タンパク(Pglycoprotein)
問2は 「A+RX」はタンパクが変異しているので実質は[A]とほぼ同じ数値になることを見抜ければ、選択肢から選ぶのは簡単ですね。

 抗がん剤抵抗性のがん細胞は、、抗がん剤への自然選択で生き残っていきます。
 抗がん剤抵抗性獲得のしくみはいくつかありますが、その中で有名なものの1つが、
抗がん剤を細胞外に排出してしまう膜タンパク「多剤耐性P糖タンパク」の獲得です。抗がん剤をくみ出してしまうので効果が少なくなってまうわけです。
対処法は問3の1「抗がん剤」を増やす方法もありますが、副作用が更にきつくなるので、3「多剤耐性P糖タンパク」の働きを抑え、
抗がん剤の細胞外へのくみ出しを阻害することで細胞内にとどまらせ、
抗がん剤を効きやすくする方法も考えられています