04群馬大医学部・後期小論文 

血小板の役割は出血を止めることのみにあると長い間信じられていた。それは事実であるが、血小板は同時に増殖因子を放出し、傷口が早く治るよう細胞の増殖を促していることが分かった。
この増殖因子には血小板由来増殖因子というはなはだ事務的な名前がつけられた。
略してPDGF(注)とよぶ。細胞を試験管のなかで培養するとき、動物の血清を加えるのは、PDGFを補うためでもある。
 ウォーターフィールドはイギリス王立がん研究所で、蛋白の構造分析を行っていた。
PDGFの蛋白を細く切って、その一つ一つについてアミノ酸の配列を決めていった。1983年の春、彼らはPDGFの部分的なアミノ酸配列を手にしていた。
 一方、ワシントン郊外にある米国国立がん研究所のアーロンソンのグループは、
がん細胞、がんウイルス、がん遺伝子などの重要と思われる研究テーマには何にでも手を出し、積極的に研究を進めていた。
サル肉腫ウイルスのがん遺伝子シス(sis)もその一つであった。1983年2月にはシスの遺伝子構造を決定し、論文として発表した。
 PDGFのアミノ酸配列の分析のためにはDNA、蛋白についての情報が必要であった。
しかし、1983年当時、
(1)データベース
は始まったばかりであり、アミノ酸配列に関しては、カリフォルニア大学のドゥリットルの作ったデータベースがよく知られていた。
ウォーターフィールドはドゥリットルに頼んで、その貴重なデータベースのテープをロンドンまで送ってもらった。
5月10日、データベースのコンピューター画面は、PDGFのアミノ酸配列とサル肉腫のがん遺伝子シスの暗号が一致していることを告げていた。
(2)全く予想もしていなかったことであった。

(注) PDGF:platelet-derived grown factor
(黒木登志夫:「がん遺伝子の発見」中公新書、66〜67ページより引用、一部改変)

問1 (1)データベースの意味とそれを作成することの利点について、150字以内で述べなさい。

問2 (2)全く予想もしなかったことについて、150字以内で述べなさい。




(考える)


解答例
「問1 DNA塩基配列・タンパク質アミノ酸配列などの研究結果の情報を世界の研究者が提供しあい共有するしくみ。
インターネットでいつでも既知の情報を引き出すことができ、DNAやタンパク質に関する新研究結果が全く新しいものか否か、
既存のDNA・タンパク質との類似性などを容易に調べることができる利点がある。

問2 ヒトの傷の修復の細胞分裂の促進という通常の生理的機能を促すPDGFのアミノ酸配列が
別の種であるサルに肉腫を形成させるウイルスが持っているがん遺伝子シスのDNA塩基配列が一致していることがわかった。
 ヒトの生理的機能に関与する遺伝子が病的状態であるがんを引き起こす遺伝子に転化する可能性や、
種を超えた共通の遺伝子の存在が示唆された。」

あくまでも小論文なので、いろいろな答え方があります。
ただ問1はほぼ正解は上記のもの。
問2は「正常な生理的作用とがんという病的な状態を引き起こす遺伝子が共通であること」「種を超えた共通性」への驚きを中心に書いたほうがよいでしょう。

今日のところはこの文章から研究者の驚きの実感を少し想像してみてください。