様々な哺乳類の細胞の最大分裂回数(横軸)
 と個体の最大寿命(縦軸)との関係グラフ


 










 

細胞の寿命とがん化との関連の問題を2回で考えます。

●04東京理科大問題
「細胞の老化、不死化とがん化」に関する次の文章を読み、
以下の設問に答えなさい。

動物の皮膚などの組織を取り出して、タンパク質分解酵素を作用させると細胞が遊離されてくる。
これらの細胞を培養液の入ったシャーレに入れると、細胞はシャーレの底に付着して増殖を始める。
この方法でヒト胎児の体細胞の増殖の様子を調べると、分裂回数とともに徐々に増殖能を低下させ、
50回分裂すると増殖を停止する。
これが細胞の老化である。上図に示されているように、
種々の動物細胞についても調べられており、体細胞の分裂寿命と動物の最大寿命とは相関関係がある。
寿命が約45年のウマでは20〜30回であり、寿命2年のマウスでは8〜12回である。
このように、最大寿命の長い動物はそれに比例して細胞の分裂寿命も長い。

A「細胞の老化メカニズム(仕組み)
については、繰り返される細胞分裂を介して
細胞内のDNAやRNAあるいはタンパク質に変異
や劣化が蓄積されて細胞が分裂できなくなる
というエラー破綻説や擦り切れ説と、
それぞれの動物に固有な細胞の最大分裂寿命は
遺伝的に決定されているという遺伝的プログラム説がある。

しかしながらエラー破綻説や擦り切れ説では、一定の回数の細胞分裂後に増殖を停止することは説明できず、
遺伝的プログラム説が有力である。
では一体何が動物種固有の分裂寿命を決めているのであろうか。この候補として染色体の両端にあるテロメアが考えられている。
テロメアは、短い特定の塩基配列が数百から数千回規則正しく繰り返されており、
染色体の安定性の保持や遺伝子発現を制御しているのではないかと推測されている。
テロメアは、DNA複製の際にDNA合成酵素の性質により完全には複製されないため、
その長さは分裂毎に50〜150塩基対短くなる。
それゆえ、年齢の高いヒトの体細胞は短いテロメアを持ち、分裂寿命も短い。
また、早期に老化症状が現われる遺伝病患者の体細胞のテロメアは正常体細胞に比べて短く、分裂寿命も短い。
これらのことより、テロメアの長さは、細胞がその時点までに何回分裂したのか、
これから何回分裂できるのかを図る分裂時計の役割を持っていると考えられている。
一方、テロメアの細胞分裂に伴う短縮に対抗してテロメアの長さを保つ働きをしているのが、テロメラーゼと呼ばれる酵素である。
テロメラーゼの活性は、生殖細胞では高いが体細胞では検出されていないため、体細胞を培養していくとテロメアは短くなり、や
がて一定の長さに達すると細胞は分裂を停止すると考えられている。

老化とは正反対の現象である細胞の不死化は、
がん化の前段階と考えられており、がんの発生メカニズムを明らかにするうえで重要である。(以降明日)

問 「A」細胞の老化メカニズムについて考えてみよう。
次の記述のうち、老化の遺伝的プログラム説を支持しないものを2つ選べ。

(ア)体細胞はテロメラーゼ活性をもっていないので、
染色体の両端にあるテロメアの長さは、細胞分裂に伴って短くなる。

(イ)おおまかにいえば動物の最大寿命は、進化に伴って長くなっており、何らかの遺伝子群が最大寿命を決定している。

(ウ)エネルギーの摂取量を制限すると動物の寿命が延長されることが古くから知られている。
過剰なブドウ糖は、細胞中に存在する種々のタンパク質と非酵素的に反応して糖化タンパク質を作る。
タンパク質が糖化されると、その機能が低下し、やがて細胞は老化する。

(エ)体細胞は有限の分裂寿命をもつことが生体外で培養することで証明された。
また遺伝的に早期に老化症状が現れる早老症を発症する家系が知られており、これら患者の寿命は短く、体細胞の分裂寿命も短い。

(オ)ミトコンドリアはATPを合成するために多量の酵素を消費するので、ミトコンドリアDNAは酸化による損傷を受けやすい。
このため、細胞を長期間培養しているとミトコンドリアDNAに変異が蓄積され、やがて細胞は老化する。

(カ)がん細胞は不死化されていて無限に増殖することができるので、分裂寿命の調節メカニズムに異常が生じているものと考えられる。




(しばし考える)


解答
ウ・オ

●解説
「エラー説」を後天的要因でウオ、「遺伝的プログラム説」を先天的要因でアイエと考えればよいですね。

 カの「がん」は微妙で後天的な変異で細胞の寿命が変化するので両者の中間ですが、「2つ選べ」なのでわかりますね。

今日のところは
1、細胞にも最大分裂回数(寿命)がある
2、細胞寿命とその種(個体)の寿命は比例する
3、老化の学説にはエラー説(後天的)と遺伝的プログラム説(先天的)があり、遺伝的プログラム説が有力なこと
4、細胞寿命にテロメアが関与する

までおさえてください。