いよいよ明日ですね。今日は前泊のため移動中ですね。落ち着いてがんばりましょう。明日朝もお送りします。

Fas・Fasリガンドの話は知っておいたほうがいいです。発展問題で聞かれる可能性あります。

●(2000大分大前期総合問題/後半)

エイズではT細胞が簡単に死ぬ
 健康な細胞がアポトーシスを起こすことが、エイズ患者の免疫不全の原因であると信じられている。
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、すなわちエイズ(AIDS,Acquired Immunodeficiency Syndrome、後天性免疫不全症候群)
の原因ウイルスと接触したヒトでは、ヘルパーT細胞が死ぬ。
細胞傷害性T細胞のアポトーシス抑制にはヘルパーT細胞からの成長因子を必要とするため、
ヘルパーT細胞が消失すると、細胞傷害性T細胞も同様に死ぬ。
T細胞がしだいに減少すると、疾病、とくにウイルスや病原体感染に対する抵抗力が減退する。
HIVに感染した数よりはるかに多数のヘルパーT細胞が死ぬことがわかっている。
また、きわめて多数の細胞がおそらくアポトーシスにより死ぬことがわかっている。
しかしこの自己破壊がどうして速やかに起こるかは、まだわかっていない。
一つの確からしい解答は、過剰なFas(注1)が発現することである。
前に述べた、T細胞は活性化されてから2〜3日して初めてFasが機能をもち、
死の準備状態となるということである。
エイズ患者のヘルパーT細胞は、抗原に遭遇する前でも、機能をもったFasを多量に発現している。
このFas発現が、ヘルパーT細胞が他の細胞上(たとえばHIVや他の侵入者に対しすでに活性化したT細胞上)のFasリガンド(注2)
と出会うと、早発性のアポトーシスを起こす原因と考えられる。
準備状態となった細胞は、そのレセプターが認識できる抗原と出合うと、
活性化細胞からのシグナルを受けることなく,自己の死の引き金を引く。
抗原を認識するとT細胞はFasリガンドを作るためである。
初回抗原刺激を受けた細胞上のリガンドは細胞自体のFasと接触し、死のプログラムを活性化する。もっと悪いことには、
           
この初回抗原刺激を受けたT細胞は、FasとFasリガンドの両者を発現しており、
互いに自殺を誘導することで早発性の細胞死を増幅しかねないことである。
さらには、酸素フリーラジカルと呼ばれる分子がウイルスに感染していないT細胞の自殺を誘起する可能性もある。
この非常に反応性の高い物質はHIV感染者の感染リンパ節中で炎症により産生されている。
フリーラジカルはDNAと膜の損傷を起こす。
この損傷が激しいときには、ネクローシスが起こり、傷害がより軽度の時にはアポトーシスが引き起こさせる。
このフリーラジカル説を支持するものとして、フリーラジカルを中和できる分子がエイズ患者のT細胞のアポトーシスを抑制することが見いだされている。
エイズの抗アポトーシス療法に関する研究が、現在、進行中である。
(RC デューク他 細胞の自殺―アポトーシス、日経サイエンスより)

(注1)Fas:T細胞の細胞膜を貫通している分子。一端は細胞外に、もう一端は細胞内に突出している。
T細胞が初めて抗原に遭遇し活性化する
と、機能を持たないFasを作る。
また、Fasリガンド(注2)と呼
ばれる他の表層分子も合成する。数日後Fasは機能を持つようにな
る。Fasリガンドと結合すると、Fasを発現している細胞にアポトー
シスを起こすように指令する。

(注2)リガンド:一般にレセプターと結合するものをリガンドという。Fasはレセプター分子である。

問 エイズではなぜT細胞が簡単に死ぬか、本文中に述べられている説を要約しなさい。(300字以内)



(考える)



解答
「HIVに侵入されたT細胞は表面にFasリガンド(Fas ligand)を発現する。
T細胞は、未感染の細胞でもはじめからレセプターであるFasを発現しており、
感染(抗原刺激)を受けたT細胞のFasリガンドと未感染T細胞のFasが結合すると、感染なしでもアポトーシスが誘発される。
Fasリガンド刺激を受けた未感染T細胞は今度はFasリガンドを発現することとなり、
その連鎖反応で、HIVの実際の感染以上のT細胞のアポトーシスが誘発される。また、酸素フリーラジカルと呼ばれる分子がウイルスに感染していないT細胞の自殺を誘起する可能性もある。」


●解説 アポトーシスのスイッチ「Fas」
 細胞は実は細胞膜表面にアポトーシスのスイッチ「Fas」を発現させており、それをスイッチONさせる物質「Fasリガンド」が結合するとアポトーシスが始まる。

 HIVはそれ自体が感染し活性化・複製・脱出する時にT細胞を壊すとともに、ヘルパーT細胞のFasとFasリガンド発現を促進し、
T細胞どうしがアポトーシスを誘発しあうことでT細胞破壊が進むのです。
アポトーシス誘発にはfas以外にもミトコンドリアによって誘発される経路もあります。