「HIVとインフルエンザウイルスは共にRNAウイルスである。複製方式の相違点を説明せよ」



(考える)


解答
「HIVは逆転写酵素を持ったレトロウイルスであり、
RNAから逆転写したDNAを宿主細胞ヘルパーT細胞の核内にプロウイルスDNAとして潜伏させる。
そののち、プロウイルスDNAが活性化されウイルスRNAを転写し、ウイルスタンパク質も合成してHIVが複製されていく。
 インフルエンザウイルスは逆転写酵素を持たず、
−鎖RNAを持つ。DNAに転換することなく、RNA依存性RNAポリメラーゼの働きで、
ー鎖RNA→+鎖RNA→ー鎖RNAと複製するとともに、ー鎖RNA→+鎖RNAとした上で、
+鎖RNAが宿主細胞内でmRNAとして翻訳され、ウイルスタンパク質を作り、ウイルスが複製されていく。」

●解説〜ウイルスの分類〜

1、2本鎖DNAウイルス
  ・ヘルペスウイルス(疲労や帯状疱疹に関与)
  ・HPV(ヒトパピローマウイルス、子宮脛がんの原因ウイルス)
  ・アデノウイルス(普通の風邪、遺伝子治療で遺伝子の運び屋とし   て使用)
  ・T2ファージ
2、2本鎖DNAウイルス・逆転写酵素あり
  ・B型肝炎ウイルス(HBV)
  ・カリフラワーモザイクウイルス
3、1本鎖DNAウイルス
  ・知識として知っておく必要あるものなし  
4、2本鎖RNAウイルス
  ・知識として知っておく必要あるものなし  
5、1本鎖RNA+鎖
  ・タバコモザイクウイルスなど植物ウイルスに多い
  ・ポリオ 
  ・A型肝炎(HAV)・C型肝炎(HCV)
6、1本鎖RNA−鎖
  ・インフルエンザ・狂犬病・麻疹(はしか)
7、1本鎖RNA逆転写酵素あり(レトロウイルス)
  ・HIV
  ・HTLV(ヒトT細胞白血病ウイルス)
  ・RSV(ラウス肉腫ウイルス、昨日の問題)

●入試のポイント
 入試的には7分類まで抑える必要はない。入試に出題されるレベルでまとめるならば
・DNAウイルス
 ーアデノ・T2ファージ(ヘルペス・HPV・B型肝炎)

・RNAウイルス(逆転写なし)
−インフルエンザ・タバコモザイクウイルス(狂犬病・麻疹・ポリオ・A・C型肝炎)

・レトロウイルス(逆転写酵素持つRNAウイルス)
ーHIV(HTLV・RSV)

()の出題頻度は少ない。

●動物・植物ウイルス・バクテリオファージの分類
 宿主が「動物」か「植物」か「細菌」かで命名されている。ファージは細菌を溶かす(溶菌)するので命名。(ギリシャ語で溶かす)

●(発展編1)逆転写酵素の有無
 HIVなどレトロウイルス(逆転写酵素あり)は「RNA→DNA→RNA(→タンパク質)」とDNAになる段階を経る。
インフルエンザウイルスなど逆転写酵素がない(レトロウイルスでない)
RNAウイルスは「RNA→RNA」「RNA→タンパク質」との流れで、DNAになる段階はない。

●(発展編2)一本鎖RNA+鎖(タバコモザイクウイルス)と
ー鎖(インフルエンザウイルス)の差

 +鎖は、「遺伝子がそのまま載っている側」の意味で、それがそのままmRNAとしてウイルスタンパク質を指定するので、
宿主細胞の細胞質のリボソームでそのままタンパク質に翻訳される。
ウイルスRNAの複製は「+鎖→−鎖→+鎖」の2段階。

 −鎖は、遺伝子の鋳型鎖である。まず1回「RNA→RNA」を行うRNA依存性RNAポリメラーゼで、
−鎖が+鎖になった上で、mRNAとしてウイルスタンパク質を指定し、宿主細胞の細胞質のリボソームでタンパク質に翻訳される。
 ウイルスRNAの複製は「−鎖→+鎖→ー鎖」の2段階。

●設問(05滋賀医大)
「HIVはどのポリメラーゼを持つか?
1DNA依存性DNAポリメラーゼ
2DNA依存性RNAポリメラーゼ
3RNA依存性DNAポリメラーゼ
4RNA依存性RNAポリメラーゼ」


(考える)


解答
3(逆転写酵素のこと)
「●●依存性▲▲ポリメラーゼ」とは●●を鋳型に▲▲を合成する酵素の意味。
・DNA依存性DNAポリメラーゼ(一般の細胞の核で複製)
・DNA依存性RNAポリメラーゼ(一般の細胞の核で転写)
・RNA依存性DNAポリメラーゼ(逆転写酵素)
・RNA依存性RNAポリメラーゼ(レトロウイルス以外のRNAウイルスが持つ)

DNA依存性が一般的なのでDNA依存性という言葉を省略することもあり、
前者2つは普段は単に「DNAポリメラーゼ」「RNAポリメラーゼ」と表記して結構。
ウイルスには「RNA依存性」のポリメラーゼを持つものもある。