問1 
 ヒトの相同染色体には対立遺伝子がある。母由来の染色体上の遺伝子ABCD、その対立遺伝子である父由来の染色体上の遺伝子を
A´B´C´D´
とする。
そのほとんどは、BとB´、CとC´のように
母親由来と父親由来の
相同染色体上にある双方の遺伝子が働き、その働きの
優劣で表現型が決まる。しかし、全遺伝子の約1%は、
対立遺伝子の中で、母親由来の遺伝子だけ、あるいは父親
由来の遺伝子だけが働くようになっている。
たとえば母由来のAは発現しても父由来のA´は発現せず、
逆に母由来のDは発現しなくても父由来のD´は発現する。
生殖細胞形成時にできるこの仕組みとその影響を80字以内で記せ。
             (06早稲田大教育学部/部分/改)






DNAにメチル化がおきるとその遺伝子は発現しにくくなる。BB´・CC´にはメチル化されず両親由来の遺伝子とも発現するが、A´とDにはメチル化がおき、AD´のように片親由来の遺伝子のみが発現する。
(染色体まるごと機能停止するX染色体不活性化〜メルマガ176参考〜と異なり、同じ染色体でもメチル化される場所とされていない場所がまだらに混在する。

★親の卵・精子時点から受け継ぎメチル化された遺伝子は、基本的には生涯発現しにくくなる。これをゲノムに刷り込みがなされたようなので
genome imprinting(inではなくim)という。


問2(滋賀医大問題)

マウスで正常速度での発育を促すB遺伝子と、その機能を失い発育が遅くなりb遺伝子があり、Bはbに対して優性である。

(1)Bbの雌とBBの雄を交配して得られた子は、正常に発生し、B遺伝子が発現した。
(2)Bbの雄とBBの雌を交配して得られた子は、正常発生マウスと、発育が遅いマウス
 の2群に分かれ、その比は1:1だった。発育が遅いものはBbであり、B遺伝子
 は発現していなかった。
(3)(2)の交配で得られたBb同士を交配すると、BB:Bb:bb=1:2:1で出現した。
 正常発生マウス:発育が遅いマウス=1:1であった。

発現するB遺伝子は母親(卵)由来のものか?父親(精子)由来のものか?




父親(精子)由来
(母親(卵)由来の遺伝子はメチル化して機能停止している)



問3 一方の染色体のB遺伝子は、転写調節領域のある特定のC(シトシン塩基)が
メチル化され、受精後の発生過程で発現しなかった。なお通常の細胞分裂時のDNA
複製過程ではメチル化・脱メチル化は維持されるが、卵・精子形成のある過程で
メチル化・脱メチル化される場合がある。この場合B遺伝子にはどのようなことが
起きたか?2つ選べ。

1卵形成のある段階でCはメチル化される。 
2卵形成のある段階でCは脱メチル化される。
3精子形成のある段階でCはメチル化される。
4精子形成のある段階でCは脱メチル化される。






1、4

解説
以上を図示すると以下の図のようになる。


図の左は「問1」で各染色体でランダム(まだら)にメチル化がおきているgenome imprintingの状態を示す。

図の右は問2・3の様子を示す。メチル化自体は遺伝子を発現停止させるだけで遺伝子は存在し続けているので、記号を書いた上で×をつけて示すとよい。図では赤×をしてある。
赤×は子に受け継がれ、それを受け取った子はB×の場合は
BbでもBが発現しないため、表現型は「遅」になる。

親から子に受け継いだメチル化された遺伝子は「孫」までずっとメチル化されたままと考えると、祖先におきたメチル化パターンが子々孫々に永遠にうけつがれる形となってしまう。

しかし実際はそうではない、親から受け継いだメチル化パターンに子は束縛されるが、その子が孫を作る時には、そのメチル化パターンを「リセット・塗り替え」ができる。
・メチル化されているものを脱メチル化
・メチル化されていないものを新しくメチル化
できる。

どの遺伝子部位が
メチル化→脱メチル化
何もない→メチル化

と転換するかは
遺伝子の種類によって異なる。

この設問の遺伝子の場合は、卵形成ではメチル化、精子形成では
脱メチル化がおきるとわかる。

遺伝子によっては逆パターン(精子でメチル化され、卵で脱メチル化)もありうるので、普通のメンデル遺伝の記号の上に、「♀」「♂」どちらに×をかぶせ、逆に×をとった時に、問題の指定どおりの分離比になるかで峻別する。