グルタチオンの生物学的役割に関する生物での出題をもう1題やりましょう。
2011年山形大/部分

ある種の刺激が加わることによって細胞が自ら死ぬ場合がある。このような細胞の死に方の1つがアポトーシス(apoptosis)である。
アポトーシスによって細胞が死んでいく過程には細胞小器官や多数の分子が関わっている。
細胞内にあらかじめ存在していた分子や、不活性な状態にあったタンパク質分解酵素やDNA分解酵素が活性化されることで、核内DNAの断片化が起こる。
このように、刺激を受けてから細胞がアポトーシスで死ぬまでの反応経路を、アポトーシス経路という。

細胞の種類によって、同じ刺激を受けてもアポトーシスが起こりやすい細胞と起こりにくい細胞がある。細胞PとQについて、アポトーシスの起こりやすさに違いが生じる原因を調べるため、実験を行った。

【実験】培養中の細胞PとQに、同じ刺激を加えたところ、細胞Pは正常な状態を維持していたが、細胞Qはアポトーシスを起こして死んだ。
 アポトーシスを誘導する刺激を加えていない細胞PとQでは、タンパク質を還元的に保つ働きのあるグルタチオンの含有量に違いが
認められた。
 グルタチオンは細胞で常に合成・分解されているが、細胞により合成量が異なるため、含有量に違いが生じる。
 グルタチオン合成阻害剤を添加して培養した細胞と、何も添加しないで培養した細胞を準備し、グルタチオン含有量を調べた。(下図左)
 また同様な細胞を準備し、それぞれの細胞にアポトーシスを誘導する刺激を加え、断片化した核内DNA量を調べた。(下図右)





 
問 実験結果からPとQのグルタチオン含有量と、アポトーシスの起こりやすさとの関係について、どのように推察されるか?1つ選べ。

ア)PはQに比べてグルタチオン含有量が多いため、アポトーシスが起こりやすい。

イ)PはQに比べてグルタチオン含有量が多いため、アポトーシスが起こりにくい。

ウ)PはQに比べてグルタチオン含有量が少ないため、アポトーシスが起こりやすい。

エ)PはQに比べてグルタチオン含有量が少ないため、アポトーシスが起こりにくい。

オ)PとQのグルタチオン含有量と、アポトーシスの起こりやすさには関係がない。

カ)PとQのグルタチオン含有量と、アポトーシスの起こりやすさには関係はわからない。






答 イ

解説 黒グラフのようにグルタチオン合成阻害剤で処理した場合は、共通にグルタチオンは少なく、断片化DNA量が多くなる。
 これは、一昨日やりましたように、グルタチオンの抗酸化作用が少ないと、アポトーシスが過剰に多く(≒病気になりやすく)なるからである。
グルタチオン合成阻害剤をいれず、通常の細胞で比較したものが、図左側の白グラフである。
 グルタチオンが多いPは断片化は少なく、グルタチオンが少ないQは断片化が多いことがわかる。