★2010年防衛医大(部分・改)
 細胞の活動エネルギー源となるグルコースを血液が運んでくる。
血糖値が下がると、すい臓のランゲルハンス島にあるα細胞はグルカゴンを分泌する。これにより肝臓に備蓄されているグリコーゲンの分解が促進して血糖値は上がる。
  取り込まれたグルコースは解糖されてピルビン酸になる。
ピルビン酸はミトコンドリアのマトリクスにあるクエン酸回路と
ミトコンドリアのクリステにある電子伝達系
によって二酸化炭素と水になる。全過程を通してグルコース1 分子からATPが38分子つくられる。
解糖系の活発な活動はピルビン酸を多量に発生させる。骨格筋では
「乳酸脱水素酵素(LDH)」が
ピルビン酸を乳酸にする。その結果、強い筋肉運動を続けると筋肉内の乳酸値は上昇して血中の乳酸濃度も上昇する。
一方、心臓を動かす心筋のLDHは乳酸をピルビン酸に戻す方向に働く。これで分かるように、LDHの働き方にはニ方向性がある。
 各種臓器の細胞成分を電気泳動してLDHの酵素活性を染め出すと、5本のバンドがどの臓器からの試料でも同じ位置に現れる。
これらをLDHアイソザイムと呼ぶ。
LDHアイソザイムは
アミノ酸の異なるサブユニットMとサブユニットHが4量体となって酵素活性を有する。
全てがサブユニットHでできたH4からH3M1、H2M2、 H1M3、そして4つすべてがサブユニットMのM4までLDHには5種類のアイソザイムが存在する。バンドの太さや濃さは酵素の量や活性度を示す。
各臓器はバンドの太さや濃さに固有のパターンを持っている。
骨格筋や肝臓にはサブユニットMの構成比率の高いアイソザイムが多く、心筋や赤血球にはサブユニットHの構成比率の高いアイソザイムが多い。
  アイソザイムのできる遺伝的仕組みは、LDHがそうであるが複数の遺伝子がそれぞれのサブユニットを作るゲノムレベルの方法と、
(a)「 一つの遺伝子から伝令RNAが完成する過程で、複数種類の伝令RNAが作りだされる方法」
がある。疾患を調べるために、採血して調節した血清を用いて電気泳動してLDHなど
(b)「アイソザイム分析」
することがある。

問1 LDHの働きは、ツンベルク管実験装置を使って調べることができる。酵素活性があった場合は反応基質が入って緩衝液中に加えた
メチレンブルー(MB)の色が変化する。ちなみに、酸化型MBは青色で還元型MBは無色である。
(1)緩衝液を使う理由も述べよ。(20字以内)
(2)酵素活性によって、どのタイプのMBの色がどのように変化するか、述べよ(20字以内)

問2 (a)で示される過程で起こる現象をなんと呼ぶか。
問3 問2で示される過程で切り取られて捨てられる部位の名称を記せ。
問4 (a)で示される過程がおこなわれる細胞内の名称を記せ。
問5 (b)で示される分析の結果、染め出されたバンドがM4の位置に1本だけであった。
実験操作の影響以外にどのような理由が考えられるか、述べよ。(20字以内).
問6 (b)で示される分析の結果、M4以外の4本のバンド位置がズレていた。
バンドの間隔が変わりH4のズレがもっとも大きかった。実験操作の影響以外にどのような理由が考えられるか、述べよ。(20字以内)
問7 (f)で示される分析で何がわかるか、述べよ(30字以内)



(考える)




問1(1)pH変化を防ぎ酵素の変性失活を防ぐ
  (2)MBが酸化型の青から還元型の無色になる。
問2 選択的スプライシング
問3 イントロン
問4 核
問5 H遺伝子が変異し発現しない疾患であった
問6 H遺伝子変異で分子量が違うHが合成された
問7 バンド分布により損傷臓器や遺伝子変異がわかる。

解説
各臓器ごとに、
H4:H3M1:H2M2:H1M3:M4
の存在比が異なり、それは各バンドの太さでわかる。

たとえば
H4:H3M1:H2M2:H1M3:M4
=10:5:2:1:0
ならば心筋

H4:H3M1:H2M2:H1M3:M4
=0:1:1:3:7
ならば肝臓

などとなる。

問5・6は遺伝子の変異があった場合を示すが、
問7は、遺伝子異常がない場合でも、各臓器に損傷があり、その臓器由来のLDHが血清に出てくるので、どの臓器が損傷しているかもわかるという視点も加味して答える。