昨日と同じグラフに関する問題ですが、長いので3分割します。
今回は2回目です。

↓細胞の分裂回数とテロメア長さのグラフ

●04東京理科大(昨日の続き)

老化とは正反対の現象である細胞の不死化は、
がん化の前段階と考えられており、がんの発生メカニズムを明らかにするうえで重要である。
上図は、細胞の分裂寿命とテロメアの長さの関係を示している。
ヒト胎児の体細胞にDNA腫瘍ウイルスである
SV40(細胞をがん化する能力を有しているウイルス
を腫瘍ウイルスと呼び、
ウイルス粒子内に含まれる遺伝物質がDNAのものが
DNA腫瘍ウイルスである。SV40はその一種)
を感染させ、SV40のT抗原(細胞のがん化に関与するタンパク質)
を発現させると、細胞は延命されて50回の分裂寿命を越えて20回余分に分裂したのち、再び分裂を停止する。
50回の細胞分裂で分裂寿命に達した老化細胞は、
その状態で数ヶ月は生存する。一方、SV40のT抗原の働きにより延命された細胞では、
さらにテロメアは短くなり、
限界に達して染色体の安定性を保てなくなる。
そして、4nなど異数性の染色体が増えて、一部の細胞が死滅し、徐々に細胞数が減少する。
この状態で培養を続けると、
ごくまれに無限の分裂能を獲得した不死化細胞が現れる。
この不死化した細胞もSV40のT抗原の働きに依存しており、その働きを抑えると再び増殖を停止する。

これらの現象は、ヒト体細胞の不死化には2段階あることを
示している。すなわち、SV40のT抗原により克服されるM1期およびT抗原では克服できないM2期である。
したがって、

(B)細胞が無限の分裂能を獲得して不死化するためには、
T抗原で抑制されるM1期を乗り越えると同時に、
今まで抑制されていたテロメラーゼ遺伝子を
活性化することによって、テロメラーゼを機能できるようにしてM2期を克服する必要がある。

(C)現在、細胞のがん化は多くの段階を経て起こると考えられている。すなわち、細胞は不死化の段階を経て、
さらに細胞分裂を促進する遺伝子(原がん遺伝子)に変異が生じるとがん細胞に変化する。

この仮説を裏付ける証拠として、がん細胞は無限分裂寿命をもち、
おおよそ90%が生殖細胞と同様にテロメラーゼ活性をもっていることがあげられる。
しかし、不死化しただけでは、細胞はがん化しない。

不死化はがん細胞に変化する前段階と考えられ、
不死化した細胞の原がん遺伝子を科学発がん物質などでさらに変異させて活性化すると、高率にがん細胞に変化する。
これらのことを考えると、
がん細胞を有限分裂寿命をもった細胞に変化させることができれば、がんを治療できるかもしれない。

問(B)について、テロメアの長さと分裂寿命の関係を考えてみよう。次の記述のうち、誤りのあるを1つ選びなさい。

解答群
1、生殖細胞はテロメラーゼ活性をもっているので、細胞分裂を繰り返してもテロメアの長さは短縮しない。

2正常体細胞は、細胞分裂に伴ってテロメアの長さは
短縮されM1期で増殖を停止するが、染色体の安定性は保たれている。

3、20歳の青年の精子と80歳の老人の精子のテロメアの長さは、
ほぼ同じであると思われる。

4、SV40ウイルスのT抗原によってM1期を乗り越えたヒト体細胞ではテロメアの短縮は停止されるが、
M2期で染色体の安定性が失われて分裂を停止する。

5、M1期を克服したのち、さらにテロメラーゼを機能できるようにして
M2期を乗り越えて不死化した細胞では、
テロメアの長さは限界以下にならないように保たれている。

6 SV40ウイルスのT抗原は、M1期で細胞の増殖を抑制している遺伝子
の働きを妨げて細胞の分裂寿命を延長しているものと思われる。 

7、20回分裂したヒト胎児体細胞を−80℃で1年間凍結して
保存した後、再び培養すると少なくとも30回は分裂を繰り返す。



(しばし考える)




解答
 4

解説
ほとんどの解答が正しい中、4の「(SV40感染体細胞では)テロメア短縮が停止される」というのが間違い。
短縮は停止されず、不安定化領域まで短縮していく。

●「延命」と「不死化」は異なる
  正常細胞は50回分裂時点で分裂を停止します。
これを発見者のヘイフリックの名をとってヒト細胞分裂の「ヘイフリック限界」といいます。
 染色体の安定性が失われない余裕を持った長さで
分裂(50回)を自粛するわけです。
それを乗り越えて、安定性が失われるぎりぎりまで(70回)分裂することができ、これを延命細胞といいますが、
延命の限界は70回で、それを超えると染色体の安定性が失われ死にます。
 50〜70回の間に、テロメアを延長できるテロメラーゼ活性を回復するとテロメアの長さを維持でき不死化し、
その中からがん化するものが登場します。