09浜松医大

中枢神経系のニューロン(神経細胞)は、他のニューロンからの数千にも及ぶ入力を受けている。
このためニューロンの細胞体や樹状突起は、シナプスで覆われる格好になっている。シナプスにはニューロンを興奮させるものに加え、ニューロンの興奮を抑制するものも含まれている。
興奮性シナプスでは、1回の神経伝達物質の放出によって、受け手側の細胞膜に小さな脱分極(膜電位の負の値が小さくなることを脱分極という)が引き起こされる。
これを興奮性シナプス後電位(興奮性PSP)と呼ぶ。
しかし個々の興奮性PSPは小さすぎるため、それらは単独では受け手側のニューロンに活動電位を発生させることができない。
それでは受け手側のニューロンでは、どのようにして活動電位を発生させているのだろうか?
数多くの興奮性PSPが細胞体で加重され、その結果ある大きさ(閾値)を越えた脱分極が(注)軸索小丘に生じた場合、活動電位が発生することになる。
(注)軸索小丘とは、細胞体から軸索へ移行する部分を指す。活動電位は軸索小丘で発生し、それ以外の細胞体領域、樹状突起では発生しない。

問1.活動電位は、ニューロンに生じる脱分極の大きさが閾値を越えないと発生しない。
またいくらニューロンに与える刺激を強くしても活動電位の大きさは一定で変わらない。これを何と呼ぶか記せ。

問2.閾値をわずかに越える脱分極が引き起こされた場合と、閾値を大きく越える脱分極が引き起こされた場合とでは、
活動電位の発生にどのような違いが生じるか述べよ。

問3.軸索小丘で発生した活動電位は、軸索を伝わっていく。有髄神経の軸索において活動電位を生じる部分の名称を記せ。

問4.受け手側のニューロンに対して、複数の興奮性入力がどのような形で加えられたときに興奮性PSPが加重されるか。考えられる可能性について述べよ。

問5.抑制性神経伝達物質の受容体の大部分は、塩素イオンを通過させるチャネルである。
このチャネルを通じて塩素イオンが細胞外から細胞内へと流入することによってニューロンの興奮は抑制される。
こうした塩素イオンの働きがなぜニューロンの興奮を抑制することになるのか。考えられる理由を述べよ。



(しばし考える)


解答
「問1.全か無かの法則

問2.閾値を大きく越える脱分極が引き起こされた場合では、生じる活動電位の大きさに違いはないが、発生頻度が高くなる。

問3.ランビエ絞輪

問4.複数の興奮性入力が同時に、または一定時間内に繰り返し加えられた場合に、多数のNa+チャネルが開くことで興奮性PSPが大きくなる。

問5.細胞体に生じる膜電位の変化は入力の総計であり、興奮性ニューロンによってNa+チャネルが開いてNa+が流入しても、
Cl−チャネルが開くと細胞内にCl−が流入することで膜電位の上昇が相殺され、脱分極が閾値を越えにくくなるため。


●09東北大前期部分
「ハンマーなどで膝(ひざ)のすぐ下側を軽く叩くと、無意識のうちに足が前に跳ね上がる反応が見られるが、
この脊髄反射を特に膝蓋腱(しつがいけん)反射といい、
大腿四頭筋に存在している筋紡錘と呼ばれるセンサーが重要な役割を果たしている。膝蓋腱反射では、
ハンマーの刺激により膝の関節を曲げる屈筋が弛緩することにより、足が前に跳ね上がる反応が円滑に生じる。
 膝蓋腱反射の反射弓は以下の通りである。

筋紡錘

感覚神経1
↓ ↓
運 介
動 在
神 神
経 経
2 3
↓ ↓
伸 運
筋 動
  神
  経
  4
  ↓
  屈
  筋

(伸筋は膝上の表面で収縮すると足を伸ばす(跳ね上がる)方向、屈筋は膝上の裏面(背側)で収縮すると足を曲げる方向)

問1 神経1・2・4の活動電位の「振幅」「頻度」はハンマーで膝のすぐ下を軽く叩いた時、それぞれ「不変」「増大」「減少」のいずれとなるか?

問2 3の介在神経線維上に観察される活動電位の頻度はハンマーの刺激により増大することが知られている。
3の神経細胞が放出する神経伝達物質は4の神経細胞の膜電位をどのように変化させるか?」



(しばし考える)


解答
問1 1・2・4の「振幅」(活動電位の大きさ)は不変(全か無かの法則)。1・2の「頻度」は上昇。4の「頻度」は減少。
問2 (塩化物イオン流入で)静止電位を更に負側にさせ、興奮を起こしにくくさせる。


●解説
 シナプスには、次の神経側でNa+を流入させ次の神経を興奮させる「興奮性ニューロン」だけでなく、Cl-を流入させ興奮を抑制する「抑制性ニューロン」も入力しており、
「興奮させる総数(Na+流入総量)ー抑制させる総数(Cl-流入総量)」の差し引きが、
あるレベル(閾値)を超えると次の神経が興奮