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アミノ酸から構成されるタンパク質が原因
となるプリオン病を勉強しましょう。(画像はなし)

●設問(02奈良県立医大・部分)
クロイツフェルト・ヤコブ病(ヤコブ病)はヒト神経細胞が減少して脳内がスポンジ状となり、(1)「認知症(痴呆)を引き起こし発病1年以内に死亡する病気」である。

ウシが全身麻痺を起こして死亡する狂牛病(BSE)
)はヤコブ病と脳組織が似ているため、
狂牛病に感染した牛の特定の組織を食べることでヤコブ病になるのではないかという疑いがもたれている。
当初、ヤコブ病の病原体(2)「プリオン」は(3)「ウイルス」の一種とみなされていたが、今では核酸をもたない感染性のタンパク質粒子であり結晶化することもわかっている。
ただし、プリオンは酵母からヒトに至るまで普通に存在するプリオン遺伝子の産物であり、特に体に害をおよぼさない。
ところが、正常プリオンが異常になるか、異常プリオンに感染すると、その異常プリオンが生体内で増殖する。
従来、細菌のため用いられている放射線や加熱に対してこの異常プリオンは抵抗性を示し、病原体撲滅を困難にしている。

問1.(1)について、ヤコブ病以外にアミロイドという物質によって認知症(痴呆)を引き起こす病気がある。その病名を記せ。

問2.(2)について、プリオンが生物であるとするか、しないかは意見が分かれる。(ア)生物であるとする証拠と(イ)生物でないとする根拠をそれぞれ記せ。

問3.(3)でウイルスとプリオンで構成成分の違いは何か。

問4.プリオンはセントラルドグマとして理解されにくい点がある。それはなぜか。


(しばし考える)



問1 アルツハイマー病
 問2 アー増殖すること 
イー遺伝子である核酸を持たないこと
 問3 ウイルスは核酸とそれを包むタンパク質からなるが,プリオンはタンパク質しかもたない
 問4 核酸を持たないので転写・翻訳が行われないが、増殖するから

●解説〜プリオン病とBSE〜
 哺乳類の脳内にもともと存在しているある種のタンパク質(正常型プリオン)は、通常は通常のタンパク質であるが、
立体構造が変わると自己増殖能を持つかのようなタンパク質(感染型プリオン)になる。 
 感染型プリオンは隣接する正常型プリオンを次々に感染型プリオンに変化させる。
 「感染型プリオン」が隣接するだけで「感染型プリオン」に転化し、DNAやRNAの介在がないため、
「DNA→RNA→タンパク質」の流れに従わないように見えるためセントラルドグマに当てはまらないように見えるが、
大元をたどれば、感染型プリオンを作りやすい家系には遺伝子(DNA)変異が存在するので、全くDNAが関与していないわけではない。

食事から入ってきた感染型プリオンが脳にまで到達すると同様なことを引き起こす。
(小腸でタンパク質はバラバラのアミノ酸まで分解されてから吸収されるのが基本であるが、小腸末端の回腸では一部タンパク質のままで吸収されることがある。)
 「正常型プリオン」と「感染型プリオン」の立体構造は、正常型では「αらせん」が多く、感染型では「βシート」が多いという違いがある。
 
 遺伝子変化によって、感染型プリオンが正常型プリオンとアミノ酸配列が少し違う場合もあるが、その場合、そのアミノ酸配列の違いはβシートへの転化を起こしやすい場所であることも多い。
 なお、プリオン(prion)という言葉自体が「protein+infection(感染)」の略称であるので、
「正常型プリオン」「感染型(異常)プリオン」という表現はおかしいのだが、健常者の脳内にも同様なタンパク質が存在することを明確にするためにこの表現を使うことも多い。

●ヒトのプリオン病の4分類

1、「孤発性」クロイツフェルト・ヤコブ病
  65歳以上の高齢者に低頻度で出現。加齢に伴いある頻度で誰でも「正常型プリオン→感染型プリオン」への転化が起こる

2、「家族性」
 プリオンを指定する遺伝子がある家系では突然変異により、βシートになりやすいアミノ酸配列を持つ。その家系では65歳以前でも発病することがある。

3、「医原性」(薬害ヤコブ)
 クロイツフェルトヤコブ病にかかった人の乾燥硬膜(脳を覆う膜)を脳損傷時などの移植に使ったため発病した薬害。

4、「BSE由来」

 ウシのプリオン病であるBSE(狂牛病)の肉を食べた人に発症した。若年層に発症し、牛肉の安全性に関して世界的に問題になった。