さて、今日の問題は「大腸菌における組換えタンパク技術」において、昨日の「2種の抗生物質選択」と並ぶ「Blue White Selection」という代表技術です。抗生物質は2種でなく1種のみ近い、別のもので選別します。


★2013年麻布大獣医学部問題(一部改)

糖尿病の治療に使用されるinsulin製剤は、ヒトinsulin遺伝子を導入した組み換え
大腸菌により生産されている。ヒトinsulinタンパク質を生産する組換え大腸菌を
得るために次の手順で実験を行った。

●ampRは抗生物質抵抗性遺伝子
●X-galを加えると分解し、青色色素を作る酵素を作る遺伝子









 










 












実験1 図に示した大腸菌内で増殖するplasmidを
    赤→の位置で制限酵素により切断した。
実験2 ヒトのgenomeDNAから制限酵素で切断して得た
    insulin遺伝子(I遺伝子)と
    ヒトのすい臓細胞に含まれる
    insulin遺伝子のmRNAから人工的に合成した
    DNA(U遺伝子)を、それぞれ実験1で切断された
    plasmidと結合させた。
実験3 作製した2種類のplasmidをそれぞれ大腸菌
    に取り込ませた。
実験4 作製した組み換え大腸菌の中から目的のplasmidを持った大腸菌を選別した。

★問1 DNA断片と切断したplasmidを結合させるために用いた酵素はどれか?
   @DNA ligase ADNA polymerase BDNA helicase C逆転写酵素 D制限酵素





@



★問2 作製した組み換え大腸菌の中から、plasmidを持つものだけを選別することができる
  寒天培地として適切なものを選べ。 
   @十分な栄養分が含まれる寒天培地 
   A特定の栄養素が欠如した寒天培地  
    Bampicillinが含まれる寒天培地 
   CampicillinとX-galが含まれる寒天培地  
   DX-galが含まれる寒天培地





答B
解説
plasmidが戻っていれば、ampicilinに対する抵抗性は共通にあるので、
plasmidが戻った大腸菌だけを選ぶならばampicilin培地で育ったものを選べばよい。


★問3 作製した組み換え大腸菌の中から目的のDNAが組み込まれたplasmidを持つもの
  だけを選別することができる寒天培地をはどれか?

@十分な栄養分が含まれる寒天培地 
   A特定の栄養素が欠如した寒天培地  
    Bampicillinが含まれる寒天培地 
   CampicillinとX-galが含まれる寒天培地  
   DX-galが含まれる寒天培地






C
解説 昨日のkanR遺伝子部位と同様、目的DNAが組み込まれたか否かを
lacZの発現の有無で選別できるので「ampicilin+Xgal」が必要。

★問4「ampicilin+Xgal」培地で育てると、下図のようにblueとwhiteのコロニーができた。どちらが遺伝子が組み込まれた大腸菌か?






White

解説
青が発色できるということは、lacZ遺伝子が破壊されていないのであるから「赤→」の部分に目的遺伝子が組み込まれていない。
白いコロニーのほうが、l赤→」の部分に目的遺伝子が組み込まれ、
遺伝子導入が成功したコロニーである。
 一見、発色したほうが派手なので成功に見えるが、発色しないほうが成功であるので注意!
 

問5 実験4で得られたT遺伝子とU遺伝子が組み込まれた大腸菌のうち、正しく機能する
  insulinが合成されるのはどちらか一方のみである。その理由として適切なものを選べ。

  @Tが組み込まれた大腸菌は遺伝子の一部をintronとして除去してしまうため。
  ATが組み込まれた大腸菌はsplicingを行えないため。
  BUが組み込まれた大腸菌はintronが除去されており、原核生物のribosome
  では正しくタンパク質合成ができないため。
  CUが組み込まれた大腸菌の遺伝子はRNA polymeraseに認識されずmRNAが合成されない。





A
解説
ヒト遺伝子そのものを大腸菌に読ませるとsplicingを行えないので、intronまで読んでしまい、正しいinsulinが合成できない。