●04滋賀医大問題 癌(がん)はいくつかの a遺伝子の変異 によって起こる 「遺伝子の病気」である。 われわれの体には身体をつくっている体細胞のほかに、子孫を残すための生殖細胞がある。 大部分の癌は、体細胞の遺伝子に変異が起こるため遺伝することはないが、小児の網膜芽細胞腫など遺伝性の癌では、 生殖細胞に病気の原因となる変異が起こっている。 遺伝性の網膜芽細胞腫は、常染色体にあるRbと呼ばれる癌抑制遺伝子の片方が生まれたときから欠失していて、 このことが癌の小児期での発症と深い関わりがあると考えられている。 b網膜芽細胞腫には非遺伝性のものも存在するが、この場合は癌の発症年令が遺伝性の場合より遅くなることが知られている。 細胞が1回分の分裂を終えてから次の分裂を終えるまでを細胞周期といい、 分裂期(M期)と間期に分けられる。間期はさらにG1期、S期(DNA合成期)、G2期に分けられる。 Rb遺伝子は細胞周期の cG1期からS期 への移行を抑えているため、 この遺伝子の不活化によって細胞増殖が活発になり、細胞が癌化へ向かう要因になると考えられている。 体細胞は、心筋細胞や神経細胞など分化・成熟して増殖能がなくなっている細胞と、 上皮細胞や骨髄細胞など分裂増殖する能力を保持している細胞とに分けられる。 癌は後者のような増殖能を保持し新たに細胞を供給できる細胞から生じてくる。このような細胞集団では、 遺伝子の変異を引き起こし癌化への引き金になるようなDNAの傷害が起こった時には、 その細胞にDNAや特定のタンパク質の分解をともなう細胞死を誘導し排除するしくみを持っている。 このような細胞死は dアポトーシス と呼ばれていて、この現象も遺伝子によって調節されている。 癌の発症には細胞周期の活性化だけでなく、アポトーシス誘導を抑制するような遺伝子変異も重要な役割を果たしている。 問1.aの「遺伝子の変異」を引き起こす原因になることが わかっている物理的要因と化学物質をそれぞれ1つずつあげよ。 問2.bの非遺伝性の網膜芽細胞腫では遺伝性のものより 癌の発症までに時間がかかる理由を述べよ。 問3.グラフA〜Fは様々な細胞集団の細胞あたりの 相対的DNA量(横軸)と細胞数(縦軸)との関係を表している。 cのG1期とS期は右のグラフAのどの部分に相当するか説明せよ。 問4.Rb遺伝子が不活化した癌細胞ではグラフはどのようになると考えられるか。グラフA〜Fから選び、その理由を述べよ。 問5.dのアポトーシスを起こして死につつある細胞を含む細胞集団ではどのようなグラフになると考えられるか。 グラフA〜Fから選び、その理由を述べよ。 問6.グラフCから考えられる細胞集団、組織はどのようなものか。 問7.紡錘体の形成を阻害する薬剤であるコルヒチンを増殖中の細胞集団に作用させると、 グラフはどのように変化すると考えられるか。理由をつけて説明せよ。 ↡ ↡ ↡ (考える) ↡ ↡ ●解答例 問1.物理的要因―X線、化学的物質―コルヒチン(ベンツピレン、アスベスト) 問2.遺伝性の場合は生まれた時点でRb遺伝子を1つしかもたないため、 この1つに変異が起きると癌が発症するので若年でも発症しやすい。 しかし、非遺伝子性の場合は2つあるRb遺伝子の両方がともに変異しないと発症しないので、 かなり遅い時期に現れることになる。 (発がんの2ヒット理論) 問3.G1期は細胞分裂後DNA複製までのDNA量の少ない時期でグラフのXの部分. S期はDNAが合成されている途中の時期でグラフのXとYの間の領域に相当する。 問4.A 理由−通常のヒトの体細胞は分裂周期が長く、多くの細胞がG1期で、ごく一部の細胞がS−G2−M期にある。 つまりグラフBがふつうの状態である。 Rb遺伝子が不活化した癌細胞ではG1期に相当するXの細胞が減り、 YやXとYの間の時期の細胞が増えるグラフAとなる。 問5.E 理由−癌化した細胞集団なので、基本的なグラフはA。 その細胞がDNAの分解を伴いながら細胞死していくので、 XよりもDNAの量が少ない領域に細胞が連続的に見られるグラフEとなる。 問6.卵巣や精巣内の生殖母細胞から生殖細胞を含む細胞集団・組織と考えられる。(DNA量が通常細胞の半分のものもある) 問7. コルヒチンは細胞分裂の際の紡錘体形成を阻害する。その結果、 細胞分裂途中の細胞はDNAの複製を終え、太く短く凝縮した染色体を形成しながら細胞分裂ができず、 結果的に四倍体の細胞になっていく。したがって、グラフのXの領域の細胞数が減り、 細胞質が分裂できずYの領域の細胞数が増えるが、しばらくのちその状態でS期がはじまりDNAが複製れるため、 Y領域の2倍にあたるDNA量の位置に相当する細胞が出現するようになる。 |